黒胡椒もお砂糖も


 うひゃあビックリした!そうだ、この人いたんだった!!ちょっと待って、どこに行ってたの私!?

 一人でパニくって苦しんでいたら、高田さんの低くて静かな声がした。

「・・・よく食べましたね」

「ええと・・・はい。こんなにちゃんと食べるの久しぶりで。ずっと無言ですみません・・・」

 あなたのこと、完全に無視しちゃってたわ、と思って謝ったのだが、本人は気にしてないようだった。

 表情も変えずに店の人を呼び、コーヒーを注文する。

「尾崎さんは?」

「あ、頂きます」

 お昼から生中を2杯も飲んでしまった。さすがにコーヒーなしでは恐ろしくて帰社出来ない。

 食べたものを見回した。空になった、チキンサラダのボウルとピザのお皿、あとちょっとだけ残っているポテト。トーストも食べたし。あ、でも魚は高田さんが自分の分を食べた後片付けていたんだっけ・・・。それにしても、よく食べたな。

 ここ最近の、丸一日分ほどを昼食だけで食べてしまった。美味しかったけど、驚き・・・。

「驚いてるんですか?」

 高田さんが話していると気付くのに時間が掛かった。

「へ?」

 ついマヌケな声を出したら苦笑された。ハッキリと、苦笑だった。この人の表情が動くのを見たのは初めてかもしれない。

 とても美形だが、いつでも無表情なのだ。無愛想だし。苦笑ではあっても、一応笑ったってことで――――――――


< 30 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop