黒胡椒もお砂糖も
「高田さん!」
レジ前で騒ぐのは嫌だったけど、ここは譲れないと小声で名前を呼んで彼のスーツを引っ張る。しかしそれも無視して淡々と会計を済ませると、無愛想男は店のドアを開ける。
「ちょっ・・・!」
「どうぞ」
まさかこのタイミングでエスコートされるとは思わず、私は怒鳴りつけようとしていた声をぐっと飲み込んで、仕方なく外へ出る。
「・・・ありがとうございます」
そう呟くと、また頷いた。
「あの、高田さん!」
スタスタと歩き出した彼を追いかけて背中に叫ぶと、高田さんがいきなり止まったから背中に突っ込んでしまった。
「ぶっ・・・」
よろめいた私は彼の背中で打った鼻を押さえる。痛い~・・・もう、壁みたいな体して急に止まらないでよ~!
何なのだ、この男は!
「代金は」
上から静かな声が降ってきた。
私が涙目で見上げると、相変わらずの無表情で、南支社代表の美男子が言った。
「全額平林に払わせますから、気にしないで下さい」
「へ?」
全額?3人分?
「ああ、それと・・・」
一度は前を向いた体をまた私に向けて、高田さんは微笑した。
私は思わず微妙な体勢のままで固まる。
・・・無愛想が、笑った。