黒胡椒もお砂糖も
第2章 微妙な距離
1、平林の反応
あれから平林さんとは廊下でのすれ違いすらなくて、私はいまだ昼食のお礼を言えずにいた。
高田さんが宣言通りに平林さんに代金を請求したのなら、お礼は平林さんに言うべきだ。そう思ってはいたのだが、何せ事務所が違う上に多忙な彼のこと、ちいーっともお礼を言うチャンスは巡ってこなかったのだ。
全然必要ない時にはよく見た愛想の良い男とその隣にいる見目麗しい男は、必要があるときには影も見なかった。
そしてそのまま1週間。12月に入っていて、気温も完全に真冬だ。
今日は支社長出席での11月戦の表彰式。支社全体の職員がホールを借り切って集まるイベントで、それを楽しみにして仕事を頑張る職員もいるらしい。
私はひたすら給料の為に働いているので、そんなこと気にしたことはないが。むしろそうやって周りが燃えれば燃えるほど、醒めてしまうタイプなのだ。思えば学生時代の体育祭や文化祭も、熱くなっていくクラスメイトを横目で見ながら一人でやる気をなくしていたものだった。損といえば、損な性格・・・。
というわけで表彰とは無関係の私は、約2時間ある式の間、堅い椅子に座りっぱなしでひたすら舞台へと拍手をするだけの黒子に徹することになる。
うんざりしながら壇上で微笑みを浮かべて表彰や商品を受け取る成績優績者たちをダラ~っと眺めていた。
へええ~、6件も入れたんですね。凄いっすね~。ほおおお、経保(経営者保険)を3つも。やりますね~、一体どんな所から契約がうまれたんですか?とかの感想を心の中で呟きながら。