黒胡椒もお砂糖も


 第2営業からは、勿論、平林さんも高田さんも呼ばれていた。

 名前が呼ばれると、高いんだろうスーツに身を包んだ彼等が本日もスマートに壇上に上がる。堂々とした立ち居振る舞い。輝くような平林さんの笑顔ときりっとした高田さんの格好いい姿。それはそれは立派だった。

 前の席に座る前川さんと弓座さんが、小さく歓声を上げる。彼女達は、奴らのファンなんだろうな、と私は観察していた。

 男を見てキャーキャー言ってたのって、いつの話だろう。ってか私ってそんな時期あったっけな・・・。壇上から視線を外して、ぼんやりと考える。

 イケメンには全然縁のない今までだったし、私はもう、大学生の頃から元夫が好きだった。

 彼は決して美形ではなかったけど、くしゃっと笑う顔がとっても好きだったな。

 甘えん坊で、おねだり上手だった。一緒にいて楽しい人だった。

 彼を思い出すとまだ緩む視界を恨めしく思った。自動的に泣けてくるのだ。畜生、彼はまだ、私の中にいる。

 ・・・もうちょっと、ちゃんと話しあってから別れたかったな・・・。

 でも彼は、私を裏切る前に別れてくれたのだ、そう思うことにしていた。不倫をして、私を傷つけたわけではない。そうなりそうだったから、それで私を傷つける前に別れを選んだのだ。ある意味、誠実ではあった。まあ・・・浮気ではなく本気だったってことで。

 そう思うことで私は自分を慰めてきた。自分が選んだ男は私に優しかった、そう思いたくて。



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