黒胡椒もお砂糖も


「応急処置してるかどうかで全然違いますよ!電車でしょ、尾崎さん?私この後同期とランチなんで、返却は明日でいいですから」

 確かに、私は電車組。どんどん伝線が広がるストッキングって、結構目立つものだ。それに現実問題、冬で外は寒いのだ。コートから出る足の表面の穴は小さいとは言え塞ぎたいかも・・・。

「えーっと・・・はい、では借ります。ありがとう」

 私ににっこりと微笑んでみせて、彼女はマニキュアを差し出す。それを拝み受けて、やっとトイレの順番が回ってきた。

「じゃあね、ありがとう」

 私はもういちどお礼を言って個室に入る。

 どうせ出口はまだ混雑しているだろう。それを空くのを待っている間に応急処置をしてしまおうか。


 ところがトイレを出て人の中をすり抜け隅っこの方へ足を向けると、ばったりと平林さんと会ってしまった。

 何故だ、会社の廊下では会わないのに、支社中の人間が集まっている場所で会うなんて。

「あら」

「尾崎さん、お疲れ様です」

 表彰者がつける胸元の赤いバラを外しながら平林さんが笑う。おや、珍しく一人?私は恐る恐る周囲を見回して、やたらと綺麗な男が居ないのをこっそりと確かめた。

 それから口を開く。

「はい、お疲れ様です。支社一番の成績、おめでとうございます」


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