黒胡椒もお砂糖も
取り合えず称えておこう。私には逆立ちしても出来ない芸当なのだから。ほんと、一度同行営業してみたいな。どんなやり方か観察してみたい。
まさかそんなこと言えやしないけど、と一人で思っていると、ありがとうと愛想の良い声が聞こえた。
あ、それで思い出した。
私は顔を上げて微笑みを作る。お礼を言うときくらいはちゃんと笑おう。
「平林さん、先週のお昼ご飯、ありがとうございました。高田さんが支払わせて下さらなかったんですけど、平林さんに払わせるって・・・」
「あ、いえいえ。こっちこそすみませんね、途中で出てしまって」
彼はヒラヒラと手を振る。
「構いませんよ、平林さんは人気の営業さんだとは存じておりますから」
私がそう言うと、あはははと軽やかに笑った。
「尾崎さん、あの後ちゃんと食べましたか?」
彼はそう言うと、高い場所から覗き込むようにする。いやあ全く、本当に愛嬌のある笑顔だなー。私は少し下がって距離をとり、はいと頷いた。そしてへらっと笑う。
「食べられましたね~。きっとビールの魔法ですよね。あのお店美味しかったし。有難いことに、あれ以来食欲も戻って来まして」
「それは良かったです。あいつ金だけ請求して何も言わないから、結局尾崎さんが食べたのかどうかが判らなくて。そういえば、ちゃんと会話になりました?」
平林さんはそう言うとにやりと笑った。
やっぱり判ってて無口の男を私にぶつけたんだな、このヤロー。私は心持目を細めて威嚇する。
唸ってやろうかと思ったけど、周りにはまだ人がいる。じゃれてると思われると面倒臭いので止めた。