黒胡椒もお砂糖も
「お陰様で、食べるのに夢中で話をする暇がありませんでした」
そう言うと、それだけでも平林さんは笑っている。想像したんだろうな。
「何だ、ちょっと期待したのにな。あいつ本当に喋らないからな~」
横を通り過ぎる知り合いに片手を上げながらそう言った。私はつんと顎を上げる。思い出したぞ、その後に高田さんに言われたムカつく一言を。
私のその様子に気付いて、平林さんが瞬きをする。うん?と首を傾げて促した。
仕方ないから小さな声で言った。あまり人に聞かれたい話ではない。
「・・・高田さんとは全然会話しませんでしたけど・・・店を出てから言われた一言に、ムカつきました」
「え、何何?」
敬語を忘れて平林さんが嬉しそうな顔をする。もしかしてこの人、元々かなりやんちゃな性格なのかしらね。人が怒って喜ぶってどうよ。
「あいつ何て言ったの、尾崎さん」
ワクワクしているようだ。うーん、仕方ないな。
内容が内容なので、また声を潜めて少し近づく。平林さんも少し首を傾けて耳を近づけた。
「言われました、もうちょっと食べた方がいいですよって」
「うん」
「それが・・・その・・・あの、このままでは私が・・・」
「うん?」
「えーっと、だ・・・だ」
「だ?」
ええい、言いにくい!しかし、この人相手に照れるのも何か違うぞ、私。コホンと空咳をして、一気に言った。
「抱き心地が悪そうだって。痩せ過ぎてて」