黒胡椒もお砂糖も
2、こんなこと望んでない
ソファーに座った状態で上半身を傾けて足をのばす。邪魔なヒールは右足だけ脱いで、ふくらはぎを見る。
おお、開いてる開いてる。でもさすが、それなりに高いストッキングだけあって、穴が開いてもすぐに伝線するわけじゃあないんだな。
よかった、ケチらずにいいもの買っておいて。・・・まあ、結局は破れちゃったわけだけどね。
お尻半分だけソファーに預けた状態で身を捻り、透明マニキュアの蓋を開ける。
ストッキングの破れた場所にこれを塗るのだ。そうすれば固まって、一応の伝線拡大被害は食い止められるってわけ。
「よいしょ・・・」
必要ない掛け声を出しながら身を捻って屈む。
小さな刷毛を穴が開いたふくらはぎにこすり付けた。
その動作に集中していると、いきなり上から声が降ってきた。
「――――――何してるんですか」
はい?
ガバッと顔を上げたら目の前に人が居て、驚いて仰け反った。
「ひゃあ!?」
その反動で半分だけ載せていたお尻がソファーから滑り落ちる。見事に尻餅をついてしまった。
痛みと衝撃に顔を顰めたけど、蓋が開いたままの透明マニキュアを守ることに必死になっていた私は手元を動かさないようにすることだけに集中した。
ぎりぎりで、中村さんから借りたマニキュアをひっくり返さずにすんで、ほお~っと息を吐き出す。
あっ・・・あぶないったら・・・。