黒胡椒もお砂糖も
何とかマニキュアの蓋を閉めて、乱れた呼吸を抑えつつ、やっと顔を上に向けた。
畜生、誰だよ、いきなり驚かすの――――――――・・・
そして固まった。
「・・・・・・・高田、さん?」
「はい」
ミスター愛嬌の片割れの、『無駄にいい男』がそこに立っていて、尻餅をついたままで腕を高く上げている私をいつもの無表情で見下ろしていた。
「大丈夫ですか、尾崎さん」
「え?いえ・・・えーっと」
ゴニョゴニョいいながら、何とか体勢を立て直そうと床の上で動く。取り合えずマニキュアを置いたほうがいい、と気付くのに時間が掛かってしまった。それほど驚いていた。
何だよ、いきなり現れて~!!急に出現するには心臓に悪い顔なんだよ、テメーはよ!
何とかマニキュアは零さずに床に置き、太ももまでまくれ上がってしまっていたスカートを急いで引き下ろす。そしてバタバタとヒールを履いて、ソファーに座りなおした。
「・・・ああ、驚いた・・・」
私がそう言っても、高田さんは全く気にしてないように周囲を見回している。
何してるのよ、あなたはここで。
言葉を口にする前に、高田さんがぼそっと呟く。
「平林、見ませんでしたか?」
私はため息を一つついて、ここからは見えない出口の方を指差す。
「あっちで会いましたよ、さっき。もう帰られたんじゃないですか?」
平林さんを探してるのね・・・。本当にいつでもつるんでやがるな、この人達。