黒胡椒もお砂糖も
この平林孝太という男は目立つ、からだ。
その理由は3つ。
1、長身。威圧感を感じるほどに大きいわけではないが、どんなブランド物も難なく着こなす均整の取れた体。
2、いつでも笑顔。特に整っている顔立ちではないが、その愛嬌の良さで「可愛い」とか「無邪気」とか言われる表情で初対面の印象が抜群にいい。それは営業にとって神風なみに有難いこと。
3、この平林という男の横には、いつでも同じく目立つ男がいるから。
私はこっそりため息をついて、のろのろと平林さんの隣に並ぶ男を見上げた。
「・・・高田さん、お疲れ様です」
仕方なくそう言ったら、営業の癖に無口で無愛想な男は軽く会釈するだけで挨拶を済ませた。
その濃紺のスーツに包まれた長い足を蹴っ飛ばしてやりたい衝動を、何とか寸前で押さえ込む。
いつでも平林さんと行動を共にしているこの男の名前は高田。下の名前は知らない。
成績優秀な平林さんはよく会社の広報にも載るからフルネームを知っているが、この高田という男はそういうことでは広報に載らないし、よく考えたら誰もが高田としか呼ばない。だから知らない。
ただし、一部の女子社員は勿論知っているのだろう。彼に興味津々の彼女達は。
確かに興味をもたれる対象としては申し分ない男ではある。
この高田という男が目立つのも、同じく理由が3つあるからだ。