黒胡椒もお砂糖も
3、少しずつだけど、変化を体感
翌日、ちゃんと中村さんにマニキュアを返せたときは心底ホッとした。
あー良かった、高田さんから返すことにならなくて。
「助かりました、ありがとう」
第1営業部での朝礼が終わったあと、中村さんの机まで行きそう言うと、彼女はにっこりと笑ってくれる。
「良かったですー。ちょっと固まってたかもって後で焦りました。大丈夫でしたか?」
「はい、大丈夫よ」
・・・だったと、思うよ。心の中で付け足す。
だって塗り始めてすぐにヤツが邪魔したから、実際のところほとんど使ってないのだ。
「机にも一個入れてるので、また伝線したら言って下さいね~」
ニコニコと中村さんが言うのをぼーっと見詰めてしまった。
かーわいーい。うーん、キラキラだわ、本当。
もう一度お礼を言うと、自席に戻って今朝の営業準備をする。
職域のチラシ・・・あ、今日こそはあの人からアンケート貰いたい。それに、あそこの会社、どうかな。でも飛び込むのにはちょっと大きくてビビる・・・副支部長一緒に行ってくれないかな。
ご飯を食べるようになったことで、体力もつき、営業活動にも意欲が出てきていた。
去年は辛かった真冬の営業活動も、今年はそんなに嫌じゃあない。まあそれは11月戦での上司の締め上げが恐ろしかったというのもあるんだけど。あれはもう経験したくないな。
完全に停滞していた私の毎日は、なんとなくだけど確実に動き始めていたのだ。あの二人の男によって。