黒胡椒もお砂糖も
ちょっと安心して、電話を持ち直す。
「はい、尾崎です。すみません、朝礼中で出られずに失礼しました。堀口さんどうされました?」
『あのお~、ちょっと聞きたいんですけど~』
野郎が間延びした喋り方すんな!と心の中で突っ込みながらも、顔は何とか笑顔を作る。電話口の向こうであっても笑顔を作れるかどうかで、声のトーンも変わるのが人間だと、長い営業生活の間に学んでいた。
客は客だ。
「はい?」
どうしたのだ、一体。そう思って要領の得ない話をじっと聞くと、どうやら日帰り入院したらしいということが判った。
「はい、入院。堀口さん、大丈夫だったんですか?」
真面目にそう聞くと、電話の向こうでヘラヘラ笑っている気配。
『あ、別に病気とかじゃないんです~。ちょっとキャバクラで飲みすぎまして、急性アルコール中毒で運ばれちゃったんですよ~』
「は?」
『調子乗って一気飲みしちゃって・・・』
「一気飲み」
つい、物凄く冷たい声で復唱してしまった。
『そうなんです~、それも何回も~。アハハ。参りましたよ~。で、夜も遅いからってそのまま泊まりになっちゃって・・・。これって給付金出るんすかねえ?』
情けなさから眩暈を感じて私は思わず廊下の壁に頭を預ける。
・・・おいおい、頼むよ兄さん。しっかりしてくれ。
キャバクラで飲み過ぎて病院に運び込まれて入院だと~?