黒胡椒もお砂糖も
この3人に平林さんを加えた4人が、この地域の支社の壇上表彰常連メンバーだったらしい。それが今では現役営業は平林さんと高田さんのみとなり、それを残念に思ってる社員が多い・・・と、食堂の噂話で聞いた。
仕事能力でも外見でもうちの南支社を代表する名物営業二人ってわけ。だから、この二人は目立つ。目線も話題もいつでもてんこ盛りで、今だってエレベーターホールに集まる人々の視線を集めている。
その二人とお喋りをする私もついでに好奇の目に晒される。
・・・それは勘弁。
女性達の羨ましげな視線が鬱陶しくて私は前に向き直り、順にエレベーターに乗り込んだ。
あーあ、エレベーターから降りたらダッシュで事務所に駆け込もう。この人たちと戻ったらそれだけで目だってしまう。
やだやだ、私は地味~に、目立たずに過ごしたいのだ。出来るだけ、ひっそりと。
じっと、エレベーターの階数ボタンを見ていた。
「・・・尾崎さん、契約貰えたんですか?」
混むエレベーターの中でどうしても密着してしまうため、隣に押し込まれた平林さんが小声で私に聞く。
どうしてエレベーターで話そうとするのよ~・・・。私は舌打を堪えて、微かに頷くだけにした。
眉間に皺が寄らないようにだけ気をつけた。
すると更に声を潜めて、平林さんが言う。
「おめでとうございます」
「・・・ありがとうございます」
私は出来るだけ身を遠ざけながらそう返した。耳元を掠った低い声に思わず鞄を持つ手に力がこもった。