黒胡椒もお砂糖も
「や、俺も馬に蹴られて死にたくないからさ」
「は?」
彼は隣で平然と運転を続ける高田さんを指差した。
「馬。こいつだよ。人の恋路を邪魔するヤツはって昔から言うでしょ?」
・・・・馬。それは、えらく毛並みの良い馬ですね・・・・。パニックを起こしすぎて頭が上手く機能してないらしい私はそう思っただけだった。
「大丈夫だよ、尾崎さん。高田だっていきなり君を取って食いやしないから」
カラカラと笑う平林さんの声だけが、静かな車内に響いていた。
そして高田さんが車を寄せた最寄の駅で、本当にミスター愛嬌平林は降りてしまったのだった。
「じゃあ、尾崎さんお疲れ様~。俺今日はこのまま帰るわ」
後半の言葉は高田さんに向けて発したらしい。高田さんは片手をあげて了解の意を示す。
「ひっ・・・平林さ・・・」
バタン。結構な音を響かせて車のドアは閉まり、白く濁った外の風景の中、平林さんは改札まで走って行く。
「・・・・・」
「・・・・・」
心の中でショックの鐘を打ちまくっていると、高田さんは無言のままで車を発車させた。
・・・えーっと。
・・・・・えええーっと・・・。どうしたらいいのでしょうか、私。
呆然と遠ざかる風景を見送る。