黒胡椒もお砂糖も
やがてぼそりと低い声が聞こえた。
「―――――――すみません」
「へ?」
前を真っ直ぐみて運転しながら話しかける高田さんに、つい上ずった返事をしてしまう。おお~・・・やめてよ私、動揺しすぎでしょうが!
でも一体何を謝ったのだろう、この人。
疑問が勝ってつい鏡越しに高田さんと目をあわせてしまった。慌ててそらす。
「・・・平林、うるさくて」
・・・確かに彼はお喋りだけど、でも無言よりは助かります。胸の中ではそう言ったけど、実際には、いえ、と答えるだけにしておく。
沈黙。
・・・・ああ、どうしたらいいのだ、私は。もう早く早く会社に着け。着いてくださいお願いしますから。全身で祈っていた。表面は頑張って無表情を装っていたけど、頭の中ではまるで3000人の聴衆の前で演説する直前のような緊張感でのた打ち回っていた。
彼からはいい訳もなし。さっきのは冗談ですよ、と言って欲しい。そうでなければ私はこれまた別の悩みが出来てしまうことになる。
まさかね。冗談だよね。まーさか支社を代表するイケメンの優績者が、底辺をウロウロする成績の、地味なバツ1女である私を気にいるはずがない。
接点だってなかったんだし、壇上表彰の常連だとか凄い別嬪だとか、特に気に入られる理由がないではないか!
そうだそうだ、これは何かの性質の悪い冗談に決まってる。
あとはその断定を貰うだけだ!そうして私は日常に戻ろう。