黒胡椒もお砂糖も
ぐっと詰まった。ああそうだよ!って平手打ちをしてやったらあの表情の変わらない綺麗な顔は、変化を見せるだろうか。
自信なんてあるわけないではないか。夫にも会社にも捨てられた女。もう32歳の、証券会社での営業経験しかない女。一体どうやって自信など持てというのだろう。
そこまで考えて、自分でズーンと落ち込んだ。・・・・ああ、思い出して凹む。
ふう、と小さくため息が聞こえて、高田さんは前を向き、車のキーを捻ってエンジンを入れる。
「とにかく送ります。アポに遅れちゃ大変でしょう」
そしてまた黙って運転を始めた。
後ろの席で固まったまま、私は一人で落ち込むばかり。まだ一応疑っているけど、どうやら私はこの美形に告白されたらしい。そんなことが起こるとは夢にも思わないから、何のガードもしてなかった。
無防備だった心に痛い一撃。呼吸だけはちゃんとしなくちゃ。
かなり近くまできていたらしく、それから10分も経たない内に通っている職域の会社が入ったビルに到着した。
見覚えのあるビルの入口を窓の外に見て、私はコートを着て鞄を持った。
ノロノロと支度をして、ドアを開けてくれた高田さんに会釈をする。
「・・・ありがとうございました、送って下さって」
そして外に出た。振り返れない、と思って歩いていたのに、尾崎さん、と呼びかける低い声に思わず足が止まってしまう。
ドクン、と心臓が鳴った。