黒胡椒もお砂糖も
雪交じりの冷たい風が吹きぬけていって、思わず目を閉じる。凍えるようなビル風に吹かれて髪の毛が舞い上がる。
その間を縫って、また彼の声が聞こえた。
「尾崎さん」
振り返ったらダメだ。ダメ――――――――・・・・・
ゆっくりと、上半身を彼と車に向けた。
同じように雪を全身に纏わせながら、高田さんが言った。
「本気ですよ」
私もじっと彼を見る。
白い雪が舞い散っている。その白い玉が高田さんの黒髪を滑っていく。
強い風に髪を揺らして両目を細め、こちらを見る彼は本当に美しかった。私はそれをただ見ている。
彼と車の後ろでは白と灰色に濁った街。人々が傘を差して、身を縮こまらせて通り過ぎて行く。
「俺、本気です」
白い息を吐いてもう一度そう言うと、高田さんは車に乗り込んだ。そして滑るように雪の中へ消えて行った。
私は風と雪に凍えながら、しばらくそのままで立ちすくんでいた。
動けなかった。
胸のところが、ちりちりと音をたてて痛みだす。
・・・振り返ったら、いけなかったのに―――――――――