黒胡椒もお砂糖も
第3章 自分の気持ち
1、生きた伝説
結局その後、私が雪まみれで到着すると、その姿だけで既に申し訳なく思ったらしいお客様である堀口さんが、平身低頭だった。
私への電話をした後、聞き耳を立てていた隣の席の女性社員にこんこんと叱られたらしい。いいぞ、女性社員!そうだそうだ、もっとやってください!私はこっそりと彼女の机の上にノベルティの飴を置いておいた。
保険会社を代表して、感謝の気持ちだ。
代わりに叱ってくれてありがとうございます。
とにかく手続きを終わらせて会社へ戻り、提出書類を事務席に突っ込んでから、フラフラと家に戻った。
上司にも知らせず、勝手に帰宅したのだ。
外はまだ雪が降り続いている。雪に慣れていない都会の人々は大変で、どこで何人こけただ交通機関に影響が出ただ、とテレビでもニュースでやっていた。
暖めた部屋でココアを飲みながら、私はぼーっとしていたのだ。
混乱した頭を静めようとすればするほど訳が判らなくなってきて、お終いには、あれは寂しい私の心が見せた白昼夢ではないかと思うようになってきた。
・・・高田さんに好きだと言われてしまった・・・。
よく考えなくても誰かからマトモに告白されたのは、人生で初の経験かもしれない。軽いナンパ程度なら受けたことはあるけれども、真剣な交際はいつでも私から惚れて、私からアタックしたのだ。
元彼2人も、元夫も。
それがそれが、どういうわけか32歳、多分人生で一番輝いていない今のこの時に。
どっから見ても美形の、どこに出しても恥かしくない成績を持った営業で、女も男も必ず2度見するような男性が。
私を・・・好きだって。