黒胡椒もお砂糖も


「いえ、そうではなく・・・ただの、転職です」

 彼女は何かを感じたらしかった。さりげなく話題を変えてくれる。

「尾崎さんはどこの支部ですか?」

「私は第1営業部です」

 大嶺さんがパッと私を見る。・・・うん?何だ、この嬉しそうな顔は?

「第1営業部!ということは、隣は第2営業部ですね!南の高田がいる所ですね~!」

 いきなりテンションが上がったらしく、更に笑顔を大きくして彼女は言う。・・ああ・・・。私は顔が引きつらないように注意した。折角話題を変えてくれても、高田さんの名前は私には危険ゾーンなんです、大嶺さん。泣きたい。

「・・・はあ、そうですね」

 そう言うに留める。まさか、その「南の高田」に告白されたなんて間違っても言えない。

 今回は私の様子には気付かなかったようで、興奮したままで大嶺さんは話す。

「私新卒でこの会社に入ったんですけど、昔からうちの支社の3大イケメンの追っかけしてたんです~!アンケート作ったりして、それぞれの支部の子に協力してもらったりして~。それで高田さんにもアンケートお願いしたんですけど、断られたんですよ、あははは、懐かしい!」

 ・・・おお、それはそれは、大変行動的な方なんですね、と言う感想は胸の中に留めた。

 そして、あら、と思って、私は疑問を口にする。

「新卒からここに?じゃあ途中で結婚されたんですか?」

 人妻でしょ、あなた?と思って。


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