黒胡椒もお砂糖も
私は話を聞きながら引きつる口元を抑える。
彼女は興奮して話していたけど、あ、そうだ!といきなり声を上げた。
「今日楠本さんここにいらっしゃるんですよ!会議で支社に来てるって朝から皆で――――――」
「あれ、尾崎さん?」
その時廊下の端から飛んできた声に、この声は!と私はパッと振り返る。
あら、と後ろで大嶺さんが呟いた。
「――――――平林、さん。・・・お疲れ様です」
正直な私は顔が引きつった。
あーあ、逃げてたのに、こんなところで会っちゃった・・・。
廊下の向こうから、デカイ男が二人歩いてくる。いつものニコニコ笑顔を浮かべた平林さんと――――――・・・うん?
私はカラーコンタクトを嵌めてない方の目を瞬く。・・・おやまあ、あれは・・・。
見覚えのある平林さんにだけ反応していた私は、彼の後ろからくる男性にようやく気がついて、呆気に取られて見詰めた。
珍しく高田さんと一緒に居ない平林さんと歩いてくる長身の人は。
後ろから大嶺さんが嬉しそうな声を上げる。
「楠本さーん!お久しぶりです!」
「大嶺さん、こんにちは」
ハスキーで心地よい声がやたらと美形の男性から出る。彼は大嶺さんの隣にいる私にも笑顔で会釈する。
・・・声までいいってワケね。ううむ、これが生きた伝説か・・・。ようやく口を閉じて何とか笑顔らしきものを顔に浮かべ、私は大嶺さんの隣に下がった。