黒胡椒もお砂糖も


「こんにちは!もう会議終わったんですか?」

 大嶺さんが聞くと、うん、今ね、と楠本FPが答える。広報で見たことあったけど、本物はオーラというか、迫力があって凄いな。何だこの圧倒的存在感。同じ美形でも高田さんが「静」ならこの人は間違いなく「動」だな。

 艶のある黒髪は短くして綺麗に後ろに梳いてある。切れ長の黒い瞳、高い鼻、大きな口。すらりとした体によく似合う濃紺のスーツ、ブルーのネクタイ。全身から光の粒子が溢れ出ているようだった。

 大嶺さんが頬を赤く染めて楠本さんに聞いている。

「千尋ちゃん元気ですか?今度事務で新年会するのって彼女来れますかね~」

「ああ、楽しみにしてるみたいだったよ。一人でベラベラ喋ってた」

 私は傍観者に徹して稀に見る美形をじっくりと観察した。イケメンには免疫がなかったんだけど、ここ最近は高田さんを回想しすぎて慣れてきたのかもしれないな、と思った。美形も見慣れることは出来るんだなあ~って。

 それにしても、この人はどこに居ても目立つだろう。・・・この人に愛されるって・・・それだけで、かなり大変そうじゃん・・・。

 会ったこともない彼の妻である‘千尋ちゃん’に勝手に同情して一人で暗い顔をしていたら、ポンと肩を叩かれた。

「疲れてるの、尾崎さん?どうして支社に?」

 平林さんが首を傾げている。・・・あ、この人のこと忘れてた。いつでも堂々としている平林さんがかすむって、結構驚きなんですけど。


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