黒胡椒もお砂糖も


 私は資料を持ち上げて見せる。

「研修です。2年目の職員の」

「ああ、そんなのあったんだ。この年末に・・・お疲れ様」

「いえ、疲れるようなことは何も」

 そこで平林さんが振り返って、大嶺さんと奥さんの話をしていた楠本さんに言った。

「楠本さん、この人ですよ、高田のお気に入りって」

 ぶっ!!

 私がふらついて背中を壁につけるのと、大嶺さんが叫ぶのとが同時だった。

「えええー!!!尾崎さん、本当なのっ!?高田さんのお気に入りって何ー!?」

「・・・え・・いや・・・」

 私は片手を額にあてて唸る。いやいや目を開けて見ると、興奮して顔を赤くした大嶺さんと目を見開いて私を凝視する楠本FP。

 ・・・平林、殺してやる。


 和風の美形である楠本さんが、その切れ長の瞳を見開いて口を開いた。

「――――――へえ・・・高田が。それは珍しいな」

 うおー!!生きた伝説、どうかそんな瑣末なことに興味を持たないで下さい~!

「あいつも人の子だったんですねー。俺、今毎日そのネタでからかってるんですよ」

 ひょうきんな平林さんの笑い声が廊下に木霊する。私は心の中で平林さんをとっ捕まえて、ギンギンに研ぎまくった包丁で滅多刺しにしていた。


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