黒胡椒もお砂糖も
俺はショックを受けた。
彼女の為だとやってきたことが、全部自分の満足の為だと判ってしまって酷い自己嫌悪に悩まされたんだ。
何やってたんだ、俺は。一体、何やってたんだって。
彼女を幸せにすると誓ったのに、と。
「彼女は実家に帰っていたから迎えに行った。それから半年くらい話合いをして・・・だけど、離婚になっちゃったんだ」
そして俺は、更に働いた。今度の理由は彼女への慰謝料を払うため。俺が傷つけたんだから、せめてお金だけでもしばらくは困らない額を渡したかったんだ。
体の弱い彼女の心まで傷つけてしまったって、自分を責めていた。
「それで」
「・・・それで?」
平林さんがふ、と笑った。その横顔はいつもの愛嬌はかけらもなかった。ただ、疲れて傷付いた、32歳の男の横顔だった。
「それで、倒れた」
「え?」
ちらりと私を見る。
「倒れたんだ、俺。過労で、入院したんです」
・・・わお。私は無意識に拳を握り締める。・・・がむしゃらに崖を目指して突っ走る、その時の平林さんは想像も出来ない。いつでも余裕綽々に笑う彼に、そんな過去が。
「彼女はお金なんて要らないと言った。そんな必要はないって。あなたは必死だっただけだと判ってるからって。だけどとにかくあるだけは渡して、一緒に居れなかったこと、寂しくさせたことを謝った」