さくらいろ(仮)



「いい加減にしてくれ」

“彼”の声はとても優しく、包み込んでくれた手はとても温かい。

「言ってることと、やってること……違うよ?」
「拒絶の意味じゃないから……君が自分を傷付けるから怒ったんだ」
「うん……ありがとう」

こういう“大人”の対応がたまらない。
アイツとは大違い。
頭に過った“子供”を振り払う。

「……どうかしたか?」

心配そうに私の顔を覗き込む“彼”。
その唇にそっと唇を重ねる。
キスは名残惜しさを残して離れていく……

「今日は帰りたくない……」
「それはダメだ」
「今日だけじゃない! 今までだって、ずっと!」
「親御さんが待ってる」

ふと、時計を見ると5時半。
やっぱり“彼”にとっては私も子供なのかな……

「ね、“まーくん”……私のこと━━」
「好きだよ、桜」

“彼”はそっと私を抱き締めた。
それ以上はない。
……そういえば、“彼”からのキスってあったっけ━━?

……ない気がする。
その“好き”はホンモノなの━━?


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