オフィスの野獣と巻き込まれOL
餌がなくなると、もっとくれと鹿が課長に群がってくる。

「まずい。逃げるぞ」

課長に急かされて、参道を急いで駆け抜ける。

鹿を振り切ると、大きな門が見えて来た。南大門だ。

「門の高さは基壇上25.46m、わが国最大の山門であると書いてあるぞ」

課長がガイドブックを読み上げる。

「鎌倉時代に建てられたもので、国宝に指定されています」

私もガイドブックを覗いて、日本語で答える。

「美帆は、英語ができるのか?」目を輝かせる課長。

「出来ませんから、日本語で言ってくださいね」

「多少なら、分かるだろう?」

さっそく、彼が耳元で愛の言葉を英語でささやく。

「課長、仁王様が見てますよ」

巨大な金剛力士像を見上げる。

「美帆、どっちが『あぎょう』か分かるか?」

私は彼の腕にしがみついて、ガイドブックをのぞき込んで答える。

「門に向かって左が阿形(あぎょう)で、右が吽形(うんぎょう)です」
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