オフィスの野獣と巻き込まれOL

聖武天皇の詔から9年後の752年に、
大仏開眼式が盛大に行われ、

以来1260年間、大仏さまは私たちを見守り続けてくれている。

人の流れに沿って、大仏様の背中に回る。

一周して、もう一度大仏様の前に出る。

大仏様の穏やかな顔を見上げていると、
急に感情がかき乱されてしまった。

何とも言えない、大仏さまの優しいお顔を眺めていると、

どういう訳か、とめどなく涙があふれて来て抑えきれなくなった。

「どうしたんだ?」

彼が気が付いて、そっと抱きしめてくれる。

「1200年ですって。
そんなに前から、こうして人々を見守って来たんだわ」

「そうだろうね」

「そんなに長い時間見守っているって、どんな気持ちだろう」

「さあな。
ちっぽけな人間には分からないかもな」

彼は、私を抱きしめ大丈夫だからと慰めてくれる。

「本当に、人間ってちっぽけね」
私は、彼に言った。

永遠ともいえる大仏様の時間の前に、
人が生きている時間って、
何てちっぽけなんだろう。

それ以上に、私がこの人と居られる時間って、もっとわずかなものなのだ。

こうして、恋人としていられる時間は、
あとどのくらい?

私たちに残された時間はなんて、
はかないのだろう。

圧倒的な時間の前に思いしらされる。

私は、涙の本当の理由を言えなかった。
< 244 / 349 >

この作品をシェア

pagetop