オフィスの野獣と巻き込まれOL
「義彦君、私は冗談を言ってる暇はないのよ」
「冗談かどうか、よく考えてみろよ。
だから、これは取引だって言っただろう?
僕は、祐一に会社の経営権を渡す。
そのかわりに君を手に入れる。
奴も分かってるはずだ。
データーの出所が僕だってことも。どうして僕がデータを渡したって事も」
義彦君の腕が、するっと私の腰をとらえた。
私は、引き寄せられないようにドアノブをつかんだ。
けれど、唇までは防げなかった。
彼の唇が押し付けられる。
「美帆、あいつの事は忘れろ。
僕と離れてた時の事は、すべて忘れる。
僕も悪かったからね。でも、これからはダメだよ。君は、僕のものだから」
私は、義彦君の胸をドンと押した。
彼は、まっすぐ私を見つめてる。
でも、だめ。
堀川課長以外のキスは受け入れられない。
私は、毅然として言う。
「義彦君、もしかして堀川課長の母親って?」
「ああ、その通りだよ。淑子ママさ」
そうだ。やっぱりそうだった。
私は、ドアノブをひねって外に出た。
「ごめん、やっぱり送ってくれなくていい」
「おい、本当に大丈夫か?」
「淑子ママに会ってくる」
義彦君を振り切って走り出した。
淑子ママ。
どうなるか分からないけど。
話を聞こう。
溢れだす涙を必死に押さえて走った。