オフィスの野獣と巻き込まれOL
「待てよ、美帆」
義彦君の声が聞こえた。
彼が迫ってくる気配を背中に感じた。
とうとう、会社のロビーを出たところで追いつかれた。
「泣いてるじゃないか。
そんなんで、放っておけないだろう?
一緒に行こう。送っていくから」
言葉は、紳士的だけど。
私を捕まえてる腕は強引だった。
ロビーには、他の社員もいたけれど、私を救い出してくれる人は、いなかった。
専務にたてつくような社員は、ここにはいないってことだ。
私は、警備員さんに丁寧にお辞儀され、
半ば引きずられるように会社を出ると、
止まっていたタクシーに押し込まれた。
義彦君は、運転士さんに「銀座まで」と行き先を告げた。
それを聞いてほっとした。
義彦くんが、本当に淑子ママのところまで連れてってくれると分かって、暴れるのを止めた。
私が気持ちを落ちつくまで、義彦君はじっと横で待っていた。
「淑子ママに会ってどうするつもり?」
義彦君が口を開いた。
「話をしたいの」
何を話したいのか。
私にだってわかっていない。
わかってるのは、
混乱して、どうしたらいいのかわからなくなった時、淑子ママに会いたくなる。
これまでもそうだった。
何もわからない。
一人で考えたって、どうにかなるとは思えない。
だから、わかってる人に会いに行くのだ。