オフィスの野獣と巻き込まれOL
タクシーを降りて、淑子ママの店の前に立った。

義彦君は黙って、私の後からついてきていた。

「店、まだ開いてないんじゃない?」

どっしりとしたドアの向こう側は、何も見えない。

店の中がどうなっているのか、外からは見えない。

義彦君は、私がすぐに諦めるだろうと思っている。

それを見越して、タクシーを待たせたままでいる。

「空いてないなら、僕の部屋に行こう。さあ、車に戻って」

「いや、行かない」
私は、義彦君の腕を払った。

私が働いていたころは、このくらいの時間にママは出勤していた。


私は今もママが、同じ習慣で働いていることを願って、店の裏側に回った。

従業員の入口のドアは開いていた。

ドアを開けてそこから中に入った。

ママはまだ出勤してないかもしれないけど、誰かいるだろう。

私の知っている従業員は、もういないかも知れないけど。

なんとか時間稼ぎができるように、ここで待たせてもらうように頼んでみよう。

懐かしい。

こうして裏からそっと入って行くと、その当時のことを思い出す。

従業員の控え室の前で、ばったり人に出くわした。

「あれ?こんなとこで何やってんの?」

顔見知りのマスターがいた。

彼は、私がいたころから、この店のカウンターの中で料理や飲み物を作っている。

「なんだあ、また、ここで働きたいのか?」

人懐っこい笑顔で話しかけて来てくれた。

「ええ、まだ私働けるかしら。でも、今日は、マスターの焼きそばを食べに来たの」

「おお、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。ママならカウンターで計算してるよ」

マスターは店のカウンターの方を見て、遠慮しないで入って行きなという。

義彦君は、中までは入ってこなかった。

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