オフィスの野獣と巻き込まれOL
「間違い?後悔してるの?」

「後悔してる。あの時、最初に会った時、君は付き合ってもいいって言ってくれた。

その時、素直に君の気持に答えればよかった。

でも、言えなかった。君が誰かのものだと思ってた。

そんなこと白状したら、鼻で笑われると思った。

会社内で立場を知られないために、目立たない格好をしてたからね。

君とは、二度と会わないと思っていた。

だから、あんなふうに言ったんだ」


「再会したとき、思っていた。驚いてたわね」

「まさか、君にもう一度会えるとは思ってなかった。

運命だと思った。

本当に、奇跡が起きたと思った。

会いたかった人に会えるなんて。信じられなかった」

この人が本気だっていうのはよくわかった。

けれど、それでも安心できない。


「ほかに、まだ気になることでもある?」

彼が心配そうにのぞき込む。

「私、あなたが社長になって遠くに行ってしまった気がしてたの」

彼はなんだ、そんなことかとほっとした表情をした。


「遠くに?前にも言っただろう。君がいなかったら、とっくにニューヨークに帰ってる」

「綿貫は?会社はどうするつもりなの?」

「他の優秀な経営者に任せるさ。俺が直接かかわらなくても、優秀な人間はいくらでもいる」

「本当にニューヨークに行くの?」

「うん。契約期間が終わったらね。

君も仕事を辞めるなら、ちょうどいい。

俺の都合がついたら、一緒に向こうに行こう」

「一緒に行って、何するのよ」

「ショッピングでも。習い事でも好きなことすればいい」

「好きなことして、自由にしていいってみんなそう言うわ。

でも、そのうち、私のことなんて必要なくなるのよ。そうしてあっさり捨てるんだわ」
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