オフィスの野獣と巻き込まれOL

約束の時間の10分前に現れた彼は、席についてからずっと無表情のままだった。


「このスープ、美味しいですね」

これ以上ないっていうほど、親しみを込めて話しかける。

「はい」

彼は、顔の筋肉を動かさないで答える。二語以上続かない。

会話は常にこんな風にぶった切られていた。


それでも、私は、彼の重い口を開かせようと、あれこれ試してみた。


その努力もむなしく、堀川課長の表情は固まったまま。

私の我慢も限界を迎えつつある。

すでに、心が無理だと言い始めている。

もう、十分じゃない?諦めようよ。このヘルメット頭に何を言っても無駄だ。

さじを投げても、誰も文句を言わないだろう。

すいぶん、頑張ったもの。


正直に言うと、こういう協力的じゃない人は苦手だ。

うわあ、無理そう。

彼が私の面の前に現れて、3秒でそう思った。


この男と私は、さっきまで面識はなかった。

そんな人と、なぜ食事を続けてるの?

そこには、大人の事情が色々あるのだ。

そうだった。大人の事情。


断っておくけど、私はこの男に、特別な感情を持っているわけではない。

彼がどんな食べ物が好きで、嫌いな食べ物は何かってことは、どうでもいい。

どうでもいいことだけど。


私は、この男と話をしなければならない。

しつこいようだけど。

私は、この男に興味がああるわけではない。

しつこいようだけど。

私は、こんなヘルメット頭のキモ男なんかに興味はない。

彼の事、知らなきゃ話が出来ないから、知りたいんだけど。

分かるかなあ。

話のきっかけとか、共通の趣味とか。そういう事が知りたいだけ。

とにかく、この場を持たせるような話題、彼が思わず笑ってしまう話題。

そういうのがあれば、雰囲気が変わるのに。そればっかり気にしていた。

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