オフィスの野獣と巻き込まれOL
私は、亜美に気づかれないように、山科君に向かって『お願い放っておいて』のポーズをする。
彼も、お返しに、『いったい、何かあったの?』ってジェスチャーで聞いて来る。
これまでも、私のまったくうまく行かない恋愛話に付き合ってくれてた優しい友達だ。
時々、ご丁寧に男性目線からお説教をたれてくれるんだけど。
ハッキリ言って、今日は弱ってる。朝から虫の息だ。
今は、お願いだから私を放っておいて。
でも、なあ。そういう気分でいる時に限って、山科君はお節介モードを発揮してくる。
なにせ。彼は弱った人間を、犬の嗅覚並みにかぎ分けて探し出してしまう。
普通の人が気がつかない所まで、感情の細やかな動きを嗅ぎ分けるのだ。
彼の敏感過ぎる感覚は、厄介だった。
『何かあったんだろう?分かってるぞ』
口には出さないけど、すでに彼の目つきがそう言っている。
まあ、今は亜美が横にいるから、直接は聞いてこないだろうけど。
こういうところも彼の几帳面なところだ。
山科君が眼鏡越しに、また何かバカなことしたんだろうと睨んでくる。
ほんと、その通りだけど。
だから、そんなふうに睨んだって、言わないって。
私は、知らん顔して彼のお節介を無視する。
言うもんか。
私は山科君と目を合わせないように、彼の正面を見ないようにしてる。
さすがに、言えるわけがない。
いいように遊ばれて、ポイって捨てられたんだ。
そんな事、恥ずかしくて。辛くて。悔しくて。
言えるわけないも。