オフィスの野獣と巻き込まれOL
彼が登場してすでに、十数分。


彼、最初から極端に無口だけれども。

食事が出されてからは、さらに口を閉ざしてる。

私が何か言っても、相変わらずにこりともしない。

もちろん、私は彼に笑って欲しいなんて、これっぽっちも思ってないけど。

泣きたいほど間が持たない。

会話もなく、針のむしろだった。トホホ……


考えれば、相手に詰まらなさそうに食事をされた事って、仕事を含めて記憶にない。

どんなに難しそうな人だって、話してるうちに、少しは態度を和らげてくれる。

こんなに頑なのは、初めてだった。

だからかな。

逆に彼が何を考えてるのか、気になって仕方がない。

その眼鏡の奥で何を考えてるんだろう。なんて。

それで、私もむきになってるのかな。

私は場を持たせるため、何度も口元を無理に上げ過ぎて強張ってきた。

ああ、でも。こんなの絶対、顔が不自然だ。笑顔が強張ってるのがわかる。


いたたまれない。

さっさと食事だけ済ませて帰りたいのに。

そうも行かないのだ。


私は、今夜別れるまでに彼と打ち解けて、親しくなって。

ある人に頼まれたお願い事を、快く聞いてもらわなければならなかった。

実は、そういう安請け合いをしてしまったのだ。

だというのに。話の糸口を見つけるのは難しく、絶望的に見つからない気がしてきたけど。

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