SIX STAR ~偽りのアイドル~
第10章 ドラマ
次の日の朝、私の知らないところですごい事態になっていた。

十作からの電話で目が覚めた私は、言われるままにTVをつけて唖然とさせられた。
昨夜のライブの模様が朝の芸能ニュースで大きく取り上げられていたからだ。

「あかんやん。お前、何やったんや」

電話の向こうで十作が叫んでいる。

「何っていっても・・・」

何もしたつもりはないのだから。

「今からそっち行くから」
「え?」
「待っとれや。謙太と行くから」
「ちょ・ちょっと待って!ぼ・ぼく、寝起きだって」
「そんなん分っとるわ」

十作はもう聞く耳持たない感じで、私の部屋に乗り込んで来そうな勢いだ。
電話が切れた後、私は急いで身支度をする。
部屋の中に女であることがわかるようなものがないか、必死だった。

するとすぐ折り返しのように電話が鳴り、今度は謙太からの電話だ。
彼は十作をなだめていてくれているみたいで、とりあえず私に時間をくれて9時に彼の部屋で集まるということになった。
それにホッと胸をなで下して、落ち着いてもう一度TVを見てみた。

『それでは芸能ニュースです』

朝の番組は普通のニュースに天気予報・交通情報・スポーツニュースそして芸能ニュースが繰り返し放送される。
女性アナウンサーが原稿を読み始め、画面にデカデカと私の歌ている顔が映った。

「・・・」

これこそが目が点になるというのだろう。いつの間にこんな映像が撮られたのか?

『昨夜のサンダーズのライブに、シークレットゲストで今人気上昇中のグループ SIX STARのKaiが出演して話題になっています』
『この前のサンダーズTIMEに出演してから、彼らの人気はさらに増していますからね。先輩グループとも仲がいいんですね』

女性アナウンサーに答えるように、メインアナウンサーがコメントを入れている。
そのあとで私たちのグループのセカンドシングルのPVが少し紹介されたり、かなりの時間を割いて説明なんかしてくれている。


何度も私が鷹矢と顔を寄せて歌っているところが画面に流れて、最後にはあの頬へキスするところまで・・・
私は一度起き上がったベッドに、力なく倒れこむのだった。

9時に謙太の部屋へ集合だったが、その前に雪野を通して西野からメンバー全体が招集命令されてしまった。
10時にマンションの前に車が着き、メンバーが玄関フロワーで集合した。

龍星以外のメンバーが私をそこで取り巻く。
事前に瑞貴がメンバーに昨日の状況を説明してくれていたので、十作もそんなに怒ってはいない。

「大丈夫やったんか?ほかに変なことされんかったんか?」
でも十作は過保護に心配しまくりで、

「恵。俺が消毒してあげようか?」
哉斗は私に巻き付いてきて、頬にキスしようとしてくる始末だった。

「大丈夫だから。」
哉斗の顔を両手で押しやりながら言ってから、

「ごめんね。こんな騒ぎになって」
私はみんなに謝った。

事務所で西野に個人的に呼び出された時には、すごく怒られると思っていたのに、
「予想外の宣伝効果だった。」
となぜか否定も肯定もされなかった。

「西野さん、私もう限界です」
契約云々言っているけど、鷹矢に女だということがしっかりばれている。

「やっぱり男だと偽っているのは無理です。鷹矢さんにはバレてるみたいだし・・・」
怒られること覚悟で私は正直に言った。

「ああ、あいつなら大丈夫だろう」
「だ・大丈夫って?!」
言っても西野は対して驚いていない感じで私の訴えは受け流されている。

「ならどうする?やめるか?」
西野は冷たく突き放すように言い放った。

やめてしまいたい。いつも緊張を強いられる今の自分から逃げてしまいたい。
それは正直な気持ちだった。

でも・・・
「お前たちのグループは、今一本の綱の上を渡っているところだ。お前が落ちれば次々と連鎖で落ちる。」
西野はそこで言葉を切る。

「・・・」
分かっている。今が大事な時だってことは。
龍星の顔がその時頭の中に思い浮かんだ。

「どうするか、自分で選べ」
非情な西野の言葉に涙が出そうになって、必死でこらえた。

(ずるいよ。)
「わ・分かりました。やります」
西野の顔なんか見たくない。うつむいたままで私は低く言って部屋を飛び出した。

「あいつには俺から言っておく」
背中で西野が言うのがわかったが、もう答える気なんかなかった。


私のTV報道のせいもあり、SIX STARの人気は急上昇だった。
サンダーズのファンからの指示は低かったが、(生意気だとかなんとか・・・)芸能ニュースを楽しみにしていた主婦層が一斉に私たちを注目し始めていた。

私は元が女だから、男らしくない中世的な男に見える。それがかえって人気になっているみたい。

うちのグループは元から個性がはっきりしているので、それぞれ好みが誰かマッチするのも人気を押し上げる要因になっている。


あれから、鷹矢も何も接触してこないし、波風立たないそんな穏やかな時がしばらく続いていた。

私たちは相変わらず歌番組に付け加え、朝や昼の情報番組やバラエティー番組の出演と歌やダンスレッスンなど忙しく日々が流れていた。


あっという間に季節は変わり、今まで出ていた番組も終了になるらしい。
TV番組は年間4回季節ごとにTV番組の変更やリニューアルが繰り返されている。

そんな中で
マネージャーの雪野がいつもよりおどおどしながら、私たちを集めて仕事の話を始めた。

「今度の・・・仕事ですが・・・ドラマの出演が決まりました」
「え~~」
「ドラマ??」
「誰が?」

みんなが一斉に雪野に向かって叫んだ。

私はその流れには乗れずに、ただポカンとして雪野の顔を見つめるだけだった。
そんなみんなの雑音を制して、龍星が代表して聞いた。

「ドラマってこの春の連続ドラマですか?」
「は・はい。」

どちらがマネージャーか分からない感じの冷静な質問だ。

「メンバー全員が?」
「はい。メンバー全員で出るって聞いていますが、まだ詳細は上がってきてません」
「内容は?」
「主演と共演者などは?」

次々と質問をされて雪野はしどろもどろだ。

「あの~」

この緊迫した状態の中につい口を挟んでしまって、みんなから注目されてしまった。
龍星が『なんだ?』って顔をして睨んでいるのがわかる・・・

「雪野さん困っているし・・・ここは冷静に・・・」
「はあ?」
私の意見に龍星のすごむような返事。

「そ・そや。恵の言う通りや。そんないきなりいろいろ聞いたって困るやんかなあ」
十作が私に加勢してくれる。

私に助けられた雪野は、相変わらずな感じでおどおどしながら内容を説明し始めた。
物語は学園ものでスポコンで恋愛もので、涙あり・・・というものらしい。いかにもアイドルらしい初回ドラマだ。
その話は私も読んだことがある、『君の声が聞こえる』という少女漫画が原作のドラマ化みたい。

内容を聞いたうちのメンバーは、全員(私を除いて)うんざり顔だった。

弱小バスケット部のマネージャーになった主人公が、メンバーを集めて部を強くしていく。
個性的なメンバーが集まり、部が都大会で勝ち進んでいくと、主人公の不治の病が見つかって・・・

ベタな少女マンガの物語に女子は感動するのだけど、設定はかなり無理がある。

主人公はストロベリー10、あゆだと決まっている。(彼女を個人的に売り出す企画みたいだ。)

あゆの相手役はもちろん・・・龍星だ。

他のメンバーは個性的な部員として名前が連なっていて、私の役回りは・・・駄目バスケット部の初期メンバーで主人公あゆのひ弱な幼馴染だそうだ。


なぜ私が・・・
それに、なぜにバスケット・・・
一気に気分が落ち込む。

まだまだ、それだけではない。
その他の共演者の中に出演回数は少ないけど、鷹矢の名前ともう一人・・・花井恵子の名前まであった。

ここまで来ると嫌がらせ?と思いたくなる。

数日もたたない間に、初めて目にする台本というものがきて、覚えるように命令がきた。

「ああ~、もう覚えられない」
私は髪を掻き毟り叫んだ。
今日はダンス・歌のレッスン後に、事務所でメンバーで読み合わせをさせられていた。
ストレスがピークに達していた。

「大丈夫。恵なら覚えられるよ。もう一度行くよ」
瑞貴はいつも私をやさしくフォローしてくれる。

「まあな。恵がここん中で一番最初から出るしな」

そうなのだ。
この物語の中で、私はわき役なのに、ただ主人公の幼馴染という設定なだけで出演率が高い。
それが私を奈落の底に突き落とすのだ。

ただでもあゆには会いたくないのに・・・
私はチラッと龍星を盗み見る。
龍星は私のことなんかまったく気に止めずに、一人で台本を読み込んでいた。

(花井恵子との共演のこと、どう思っているのだろう?)

ついついおせっかいなことが頭をよぎってしまう。
顔合わせ・制作発表など目まぐるしく時が過ぎていった。

特撮・アクションものが好きな私には、なんだか恋愛ものは合わない。
変身はないし、アクションや戦闘もない。
こんなんなら、まだ歌や踊りの方が私は好きかもしれない。
他のメンバーも、私と同じことを思っているみたいだ。

ただ・・・
龍星だけは、真剣だった。

「あいつは主役だからな」
最初は嫌みを言っていた哉斗も、真剣な龍星の演技に途中から何も言わなくなったほどだった。
私は、花井恵子とのことを聞いてしまったから、どうしてもそれが気になってしまっていた。
それと・・・
もう一人の主役のあゆのことも・・・


あゆは始めから私のことを無視し続けている。

彼女はプロなので、演技中はまるで本当の幼なじみのように親しげに振る舞うが、演技が終わると全くの無視だ。
私はそのギャップについていけずに、それだけで気が滅入った。

撮影の中で、唯一楽しいと思えるのは、なんだか自分では嫌なのだけどバスケットをしているときだった。
撮影の合間に、メンバーで集まるとワンオンワンをやったりする。
嫌だ嫌だと避け続けていたけど、バスケットの基本は体に染み込んでしまっているのが分かる。

「うわぁ~、またぬかれた」
十作が体育館ね床に倒れ込んで悔しがった。
今日も、みんなにオール勝利した。

「おい」
だんだん雲行きがあやしくなってきた自覚はあったが、演技そっちのけで盛り上がっている私達を見て、とうとう龍星がキレた。

私は腕を掴まれて、体育館から連れ出された。
(怒られる~)
殴れるかもしれないと、頭を庇った恰好をする。

「お前、目立ち過ぎ」
「え?」
私の間抜けな返事に龍星はますます不機嫌になってきた。

「自覚がなさすぎる! とにかく、目立つな。いいな!わかったか?」

そう言うと私の頭を軽く小突いて、離れて行った。
そんな私たちに向けられた視線に、私はこの時気が付きもしなかった。

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