SIX STAR ~偽りのアイドル~
第13話 大ピンチ
今日は私が出演する場面のドラマ撮影最終日だ。
うちのメンバーは久しぶりにみんな勢揃いだった。
最近バラバラに活動していたから、なんだかメンバーと一緒なのは落ち着く感じがした。
それに今日の撮りにはあゆは来ない。
ドラマの打ち上げには顔を合わせなきゃいけないだろうから、少しでも会わないで済むのは助かる。
あゆとのことはもちろんだけど、例え普通じゃなかったにしろ、あんなこと(キス)の後で龍星に会うのも気まずかった。
「恵くん、元気ないけど大丈夫?」
ドラマ撮りの間に、瑞貴が話しかけてきた。
「う・うん。大丈夫」
瑞貴とは背がほぼ同じくらいなので、肩を並べる感じで普段からいつも隣にいる。
なんだか、雰囲気的に同姓の友達みたいに錯覚するときがある。
「瑞貴は誰か好きな人いる?」
そのノリで、コイバナを持ちかけていた。
「うん。いるよ」
瑞貴は即答だった。
(それって、男?のはずないか)
「恵くんは?」
私が自問自答して、苦笑している間に瑞貴が反対に質問を返してきた。
「す・すきな人?」
真っ先に頭に浮かんだのが龍星の顔だった。それに思わず動揺した。
「わからない」
自分の顔が赤くなってくるのを感じて、ついうつむいてしまった。
すると、瑞貴は女の子同士がじゃれつくみたいに、腕を組んできた。
「恵くんは可愛いね」
その言葉そっくり返したくなるくらいに、可愛らしい笑みの顔がすぐ近くあった。
でもその笑みはすぐにかき消えて、
「龍星が好きなの?」
真正面に男らしい始めて感じる、瑞貴の力強い視線をみた。
「・・・」
何も答えられない私に、
「僕が好きな人は、恵。君だよ」
信じらんないことを告げてきた。
「でも、僕・・・」
男だからと言おうしたそのとき、
「ラスト!行きまーす」
スタジオにこだまする。
「さあ、最後。頑張ろうね、恵くん」
瑞貴はいつもの可愛らしい彼に戻って、私の手を引っ張っていく。
その彼の意外にがっちりとしている背中を見つめたまま、頭が混乱しながらもなんとか私たちのドラマはついに最終回を迎えた。
あゆと龍星の話題があったりして、初演ドラマの視聴率は平均で14%くらいあった。
今晩は、そのドラマの打ち上げがある。
(行きたくないな)
あゆ・龍星だけじゃなく、今度は突然の瑞貴の告白に私は動揺しまくりだった。
私は今は男だ。
みんなを騙していることに負い目を感じているのに、それぞれの想いを裏切っているような気がしてしまう。
あゆにも、瑞貴にも、私が龍星を好きなのだと言い当てられてしまった。
自分で自覚していないのに、そんなオーラを出してしまっているのかもしれない。
男が男を好きなんて・・・あゆの言うとおり気持ち悪いと思う。
そんなことが分かったら、きっと迷惑になる。
キスされて、浮かれていた自分が情けなくて仕方がなかった。
仕事から戻り、打ち上げに行くために私は朴さんが用意してくれた衣装に袖を通しながらため息をついた。
今日はラフな感じに、ジーンズにブッカリとしたシャツでまとまっていた。
体のラインがわからないように、いつも朴さんは気を付けてくれている。
集合時間は18時。あと10分ほどしかなかった。
少し伸びてきた髪をクシで整えた。鏡の中にはなんだかパッとしない男でも女でもない私が映っていた。
「あ~ぁ」
ため息をついたときだった。
いきなり、携帯が鳴った。
慌てて出ると、
「何やってる。遅れるぞ」
電話の相手は龍星で、それだけ言うと切れてしまった。
久しぶりの声は、以前と変わりなくて懐かしくもあり、嬉しかった。
このままでは駄目なんだと思いつつ、このままみんなと一緒にいられたらと思い始めている。
(僕は男だ。今は、もう少し、もう少しだけこのままいられるようにしよう。)
女に戻って逃げ出してしまうのは簡単なことだけど、それじゃここまで頑張ってきたメンバーに迷惑がかかるのだから。
私は鏡に向かうと、ワックスを手に取り髪をかき上げる。
弱気にならなければ、まだ中世的な男に見える。
私が抜けてもグループが動じないようなBIGになるまで頑張って、そのあとは誰にも知られないように元に戻ればいい。
私はそう自分に言い聞かせるのだった。
打ち上げパーティーは、局が開催し結構盛大なものだった。
偉い人や有名人が多数来ていて、賑やかなものだった。
私たちのグループはマネージャーの雪野に連れられて、いろいろなところで挨拶させられた。
招待客はみんな人気上昇中の私たちのグループに興味があるのか、それとも話題の一つにでもするつもりなのか、近づいてきてはいろいろなことを言ってきた。
私は今までだったら、戸惑っているだけだったけど、顔を作り、声を作って演じた。
1つ上の兄がいつもどんな風に振る舞っていたか思い出して、それをコピーして彼に成りきってみる。
みんなの足を引っ張らないように、それに女とか男が好きな男なんかに勘違いされないように、自分のスタンスをしっかり持っていこうと思った。
「今日の恵はなんか感じが違うんちゃうか?」
十作が戸惑い気味に言ってきた。
「何が?」
さっきもらった飲み物を片手に、私は左の口角だけを持ち上げて笑った。
兄がいつもする顔だった。
「なんか、俺・・・」
十作がそこで躊躇う。
「あ~~、恵くんだ」
そこで名前は定かじゃないけど、ベテラン女優が少し酔い気味で声をかけてきた。
「こんばんわ」
アイドルらしく、謙虚にそして明るく笑顔をつくってサービスする。すぐに華やかな女性陣に囲まれる。
やってみれば私でも結構演じれている気がしてきた。
この演技も今は短時間しか続かないけど、そのうち板についてくるだろう。
この調子で頑張れば、あゆにも瑞貴にもそして龍星にも男としての恵を演じていけるに違いないと私は思った。
今のところ、主役たちは主催者などえらい方たちのところを回っていた。
あゆと龍星が揃って、各場所にあいさつをして回っているのが遠くに見えた。
このドラマが成功して、グループの知名度が上がれば、龍星の有名になりたいという夢が叶う。
私はそれをお手伝いできるように、全力を尽くそう。そんなことを思っているうちに、どうしようもなく胸が苦しくなってきた。
顔の笑みをキープさせたまま、彼女たちの香水や化粧のにおいに酔いそうになるのをどうにか耐え続けた。
「おい。恵!」
まずいと思った時にはもうどうしようもなかった。意識が朦朧としてきていた。
誰かが私を呼んでくれたけど、返事できないまま目の前が真っ暗になった。
「う・嘘やろ?なんで?」
「こんだけ一緒にいたら、普通分かるって」
「え、・・・も知ってたんか?なんでや?」
「最初からわかるぞ。わからないのがわからん」
「僕は、よくじゃれあっているからね」
「そっか~~。俺は全然・・・」
耳元で複数のよく知った声がする。
「なんで教えてくれんかったんや」
「だって・・・に言ったら、顔に出るでしょ」
「で、でもよかった、俺。違う意味でホッとした。俺やっぱ正常だったんやって」
「え?なにが?」
「あ、ううん。なんもない。じゃ、龍星、お前も知ってて?」
「うるさい。黙れ」
だんだん意識がはっきりしてきた中で、いつものように怒鳴る龍星の声に反応してして、声を上げてしまった。
「ごめんなさい」
そして、目を開けるとそこは懐かしい自分の部屋だった。(数時間前にいたけど・・・)
私の部屋に、なぜかメンバー全員と雪野が集まって私の顔を覗き込んでいた。
「目を覚ましたよ。よかった。大丈夫?恵くん」
心配そうな顔の瑞貴がすぐ近くにいる。
「わ・わたし・・・」
つい、
「あっ」
私は口を押えた。
「大丈夫だよ。みんな知っているからね」
瑞貴の後ろから覗き込んでいたのは謙太。
(知っているって?何を?)
「俺は知らんかったけどな」
謙太の横には十作がいる。
「わからないのがどうかしているよ」
そう毒ずくのが哉斗。
「お前ら、うるさいよ。もう帰ったら?」
ベッドの足元にみんなより少し離れて立っていた龍星は不機嫌だ。
「なんだよ。だったらお前もやろ」
十作はいきり立つ。
「あ、あの、何度も言いますが、私が看病しますので」
マネージャーの雪野の言葉なんか誰も聞いちゃいない。
「僕が」
「俺だろ」
「まあ、みんな落ち着いて」
大騒ぎだ。
「まあ、ここは中をとって、俺様が看病しよう」
それは予測できない展開だった。いきなり鷹矢がみんなをかき分け私のすぐ近くまで来ていた。
「お前!」
龍星がすごむ。殴りかからんばかりだ。
「リーダー君。いいのかな?こんなことしていて?今後どうすんの?メンバーでちょっと頭冷やして考えなくちゃね。と、いうことで、俺と雪野ちゃんで看病決定ね。それなら文句ないでしょ」
完全に鷹矢の勝利だった。
「わたし、女だってバレてしまったんですか?」
メンバーが引き上げてから、私はつぶやくように言った。
「いや。正確にはバレそうな感じ・・・かな?」
鷹矢は私のベッドに腰掛けている。雪野も部屋にいるけど少し離れて座っている。
「そうですか。でも、私、正直ホッとしています。これ以上嘘つきとおすのは難しくなってきたから。事務所は大丈夫でしょうか?」
まだ、女だとは世間に知られてはいなけど、もし知られてしまったら大変なことになるだろう。
「そうだね。大丈夫じゃないかも。かなり大騒ぎになるね」
こういうときにはっきり言われるのは正直いいような悪いような感じだ。
「まだ、わかっちゃったわけではないけど、いずれはバレる。俺みたいに感のいい奴はそういないけど、恵の近づく機会が多ければ多いほど危険度が上がってくる。それに・・・恵は恋しちゃっているでしょ」
「こ・恋って?!」
「相手は・・・俺・・・って言ってほしいんだけど」
そこで鷹矢は大きくため息をついておどけて見せた。
「龍星でしょ?」
鷹矢に指摘されて、体が急に熱くなる。私は布団の端をギュッと握ってしまった。
「顔に出てるよ。もうしっかりね。それが恵を女に戻してしまっている。元から可愛いからさ、もっと可愛くなっちゃっているよ」
「そんなこと」
ありえない、私なんか背も高くて棒みたいに細くて、女なんかにみえない。
鷹矢は私の頬をやさしく触ると、
「君は自分が思っている以上に、異性を引き付ける。それが証拠に、何人君のことを好きになっているかわかる?俺も含めてな」
「え??」
「このすっとぼけているところが、可愛いだよな。キスしてやりたくなる」
嘘とも本当ともとれない言葉に思わず、布団を顔半分まで上げて防御してしまった。
「うそうそ。そんなことをしたら、龍星に何をされるかわからない。命の保証がないよ」
そういって鷹矢は私の頭をやさしく撫でるのだった。
私のことはもう大騒ぎになりつつあるのは間違いがないようだ。
女である私がこのグループにいられたのは、本当にありえないことだったし、振り返れば大変だったけど楽しかった。
後は事務所の雪野や西野達に、お任せするしかないだろう。
(夢だったのよ。)
私はそう思い込もうとしていた。
うちのメンバーは久しぶりにみんな勢揃いだった。
最近バラバラに活動していたから、なんだかメンバーと一緒なのは落ち着く感じがした。
それに今日の撮りにはあゆは来ない。
ドラマの打ち上げには顔を合わせなきゃいけないだろうから、少しでも会わないで済むのは助かる。
あゆとのことはもちろんだけど、例え普通じゃなかったにしろ、あんなこと(キス)の後で龍星に会うのも気まずかった。
「恵くん、元気ないけど大丈夫?」
ドラマ撮りの間に、瑞貴が話しかけてきた。
「う・うん。大丈夫」
瑞貴とは背がほぼ同じくらいなので、肩を並べる感じで普段からいつも隣にいる。
なんだか、雰囲気的に同姓の友達みたいに錯覚するときがある。
「瑞貴は誰か好きな人いる?」
そのノリで、コイバナを持ちかけていた。
「うん。いるよ」
瑞貴は即答だった。
(それって、男?のはずないか)
「恵くんは?」
私が自問自答して、苦笑している間に瑞貴が反対に質問を返してきた。
「す・すきな人?」
真っ先に頭に浮かんだのが龍星の顔だった。それに思わず動揺した。
「わからない」
自分の顔が赤くなってくるのを感じて、ついうつむいてしまった。
すると、瑞貴は女の子同士がじゃれつくみたいに、腕を組んできた。
「恵くんは可愛いね」
その言葉そっくり返したくなるくらいに、可愛らしい笑みの顔がすぐ近くあった。
でもその笑みはすぐにかき消えて、
「龍星が好きなの?」
真正面に男らしい始めて感じる、瑞貴の力強い視線をみた。
「・・・」
何も答えられない私に、
「僕が好きな人は、恵。君だよ」
信じらんないことを告げてきた。
「でも、僕・・・」
男だからと言おうしたそのとき、
「ラスト!行きまーす」
スタジオにこだまする。
「さあ、最後。頑張ろうね、恵くん」
瑞貴はいつもの可愛らしい彼に戻って、私の手を引っ張っていく。
その彼の意外にがっちりとしている背中を見つめたまま、頭が混乱しながらもなんとか私たちのドラマはついに最終回を迎えた。
あゆと龍星の話題があったりして、初演ドラマの視聴率は平均で14%くらいあった。
今晩は、そのドラマの打ち上げがある。
(行きたくないな)
あゆ・龍星だけじゃなく、今度は突然の瑞貴の告白に私は動揺しまくりだった。
私は今は男だ。
みんなを騙していることに負い目を感じているのに、それぞれの想いを裏切っているような気がしてしまう。
あゆにも、瑞貴にも、私が龍星を好きなのだと言い当てられてしまった。
自分で自覚していないのに、そんなオーラを出してしまっているのかもしれない。
男が男を好きなんて・・・あゆの言うとおり気持ち悪いと思う。
そんなことが分かったら、きっと迷惑になる。
キスされて、浮かれていた自分が情けなくて仕方がなかった。
仕事から戻り、打ち上げに行くために私は朴さんが用意してくれた衣装に袖を通しながらため息をついた。
今日はラフな感じに、ジーンズにブッカリとしたシャツでまとまっていた。
体のラインがわからないように、いつも朴さんは気を付けてくれている。
集合時間は18時。あと10分ほどしかなかった。
少し伸びてきた髪をクシで整えた。鏡の中にはなんだかパッとしない男でも女でもない私が映っていた。
「あ~ぁ」
ため息をついたときだった。
いきなり、携帯が鳴った。
慌てて出ると、
「何やってる。遅れるぞ」
電話の相手は龍星で、それだけ言うと切れてしまった。
久しぶりの声は、以前と変わりなくて懐かしくもあり、嬉しかった。
このままでは駄目なんだと思いつつ、このままみんなと一緒にいられたらと思い始めている。
(僕は男だ。今は、もう少し、もう少しだけこのままいられるようにしよう。)
女に戻って逃げ出してしまうのは簡単なことだけど、それじゃここまで頑張ってきたメンバーに迷惑がかかるのだから。
私は鏡に向かうと、ワックスを手に取り髪をかき上げる。
弱気にならなければ、まだ中世的な男に見える。
私が抜けてもグループが動じないようなBIGになるまで頑張って、そのあとは誰にも知られないように元に戻ればいい。
私はそう自分に言い聞かせるのだった。
打ち上げパーティーは、局が開催し結構盛大なものだった。
偉い人や有名人が多数来ていて、賑やかなものだった。
私たちのグループはマネージャーの雪野に連れられて、いろいろなところで挨拶させられた。
招待客はみんな人気上昇中の私たちのグループに興味があるのか、それとも話題の一つにでもするつもりなのか、近づいてきてはいろいろなことを言ってきた。
私は今までだったら、戸惑っているだけだったけど、顔を作り、声を作って演じた。
1つ上の兄がいつもどんな風に振る舞っていたか思い出して、それをコピーして彼に成りきってみる。
みんなの足を引っ張らないように、それに女とか男が好きな男なんかに勘違いされないように、自分のスタンスをしっかり持っていこうと思った。
「今日の恵はなんか感じが違うんちゃうか?」
十作が戸惑い気味に言ってきた。
「何が?」
さっきもらった飲み物を片手に、私は左の口角だけを持ち上げて笑った。
兄がいつもする顔だった。
「なんか、俺・・・」
十作がそこで躊躇う。
「あ~~、恵くんだ」
そこで名前は定かじゃないけど、ベテラン女優が少し酔い気味で声をかけてきた。
「こんばんわ」
アイドルらしく、謙虚にそして明るく笑顔をつくってサービスする。すぐに華やかな女性陣に囲まれる。
やってみれば私でも結構演じれている気がしてきた。
この演技も今は短時間しか続かないけど、そのうち板についてくるだろう。
この調子で頑張れば、あゆにも瑞貴にもそして龍星にも男としての恵を演じていけるに違いないと私は思った。
今のところ、主役たちは主催者などえらい方たちのところを回っていた。
あゆと龍星が揃って、各場所にあいさつをして回っているのが遠くに見えた。
このドラマが成功して、グループの知名度が上がれば、龍星の有名になりたいという夢が叶う。
私はそれをお手伝いできるように、全力を尽くそう。そんなことを思っているうちに、どうしようもなく胸が苦しくなってきた。
顔の笑みをキープさせたまま、彼女たちの香水や化粧のにおいに酔いそうになるのをどうにか耐え続けた。
「おい。恵!」
まずいと思った時にはもうどうしようもなかった。意識が朦朧としてきていた。
誰かが私を呼んでくれたけど、返事できないまま目の前が真っ暗になった。
「う・嘘やろ?なんで?」
「こんだけ一緒にいたら、普通分かるって」
「え、・・・も知ってたんか?なんでや?」
「最初からわかるぞ。わからないのがわからん」
「僕は、よくじゃれあっているからね」
「そっか~~。俺は全然・・・」
耳元で複数のよく知った声がする。
「なんで教えてくれんかったんや」
「だって・・・に言ったら、顔に出るでしょ」
「で、でもよかった、俺。違う意味でホッとした。俺やっぱ正常だったんやって」
「え?なにが?」
「あ、ううん。なんもない。じゃ、龍星、お前も知ってて?」
「うるさい。黙れ」
だんだん意識がはっきりしてきた中で、いつものように怒鳴る龍星の声に反応してして、声を上げてしまった。
「ごめんなさい」
そして、目を開けるとそこは懐かしい自分の部屋だった。(数時間前にいたけど・・・)
私の部屋に、なぜかメンバー全員と雪野が集まって私の顔を覗き込んでいた。
「目を覚ましたよ。よかった。大丈夫?恵くん」
心配そうな顔の瑞貴がすぐ近くにいる。
「わ・わたし・・・」
つい、
「あっ」
私は口を押えた。
「大丈夫だよ。みんな知っているからね」
瑞貴の後ろから覗き込んでいたのは謙太。
(知っているって?何を?)
「俺は知らんかったけどな」
謙太の横には十作がいる。
「わからないのがどうかしているよ」
そう毒ずくのが哉斗。
「お前ら、うるさいよ。もう帰ったら?」
ベッドの足元にみんなより少し離れて立っていた龍星は不機嫌だ。
「なんだよ。だったらお前もやろ」
十作はいきり立つ。
「あ、あの、何度も言いますが、私が看病しますので」
マネージャーの雪野の言葉なんか誰も聞いちゃいない。
「僕が」
「俺だろ」
「まあ、みんな落ち着いて」
大騒ぎだ。
「まあ、ここは中をとって、俺様が看病しよう」
それは予測できない展開だった。いきなり鷹矢がみんなをかき分け私のすぐ近くまで来ていた。
「お前!」
龍星がすごむ。殴りかからんばかりだ。
「リーダー君。いいのかな?こんなことしていて?今後どうすんの?メンバーでちょっと頭冷やして考えなくちゃね。と、いうことで、俺と雪野ちゃんで看病決定ね。それなら文句ないでしょ」
完全に鷹矢の勝利だった。
「わたし、女だってバレてしまったんですか?」
メンバーが引き上げてから、私はつぶやくように言った。
「いや。正確にはバレそうな感じ・・・かな?」
鷹矢は私のベッドに腰掛けている。雪野も部屋にいるけど少し離れて座っている。
「そうですか。でも、私、正直ホッとしています。これ以上嘘つきとおすのは難しくなってきたから。事務所は大丈夫でしょうか?」
まだ、女だとは世間に知られてはいなけど、もし知られてしまったら大変なことになるだろう。
「そうだね。大丈夫じゃないかも。かなり大騒ぎになるね」
こういうときにはっきり言われるのは正直いいような悪いような感じだ。
「まだ、わかっちゃったわけではないけど、いずれはバレる。俺みたいに感のいい奴はそういないけど、恵の近づく機会が多ければ多いほど危険度が上がってくる。それに・・・恵は恋しちゃっているでしょ」
「こ・恋って?!」
「相手は・・・俺・・・って言ってほしいんだけど」
そこで鷹矢は大きくため息をついておどけて見せた。
「龍星でしょ?」
鷹矢に指摘されて、体が急に熱くなる。私は布団の端をギュッと握ってしまった。
「顔に出てるよ。もうしっかりね。それが恵を女に戻してしまっている。元から可愛いからさ、もっと可愛くなっちゃっているよ」
「そんなこと」
ありえない、私なんか背も高くて棒みたいに細くて、女なんかにみえない。
鷹矢は私の頬をやさしく触ると、
「君は自分が思っている以上に、異性を引き付ける。それが証拠に、何人君のことを好きになっているかわかる?俺も含めてな」
「え??」
「このすっとぼけているところが、可愛いだよな。キスしてやりたくなる」
嘘とも本当ともとれない言葉に思わず、布団を顔半分まで上げて防御してしまった。
「うそうそ。そんなことをしたら、龍星に何をされるかわからない。命の保証がないよ」
そういって鷹矢は私の頭をやさしく撫でるのだった。
私のことはもう大騒ぎになりつつあるのは間違いがないようだ。
女である私がこのグループにいられたのは、本当にありえないことだったし、振り返れば大変だったけど楽しかった。
後は事務所の雪野や西野達に、お任せするしかないだろう。
(夢だったのよ。)
私はそう思い込もうとしていた。