SIX STAR ~偽りのアイドル~
第14話 それから
それから
「お疲れ様でした」
「お疲れ」
「お疲れ様。よかったよ」
私はしっとりと汗ばんだ体で、肩からタオルをかけてあいさつをしながら控室にもどった。
市民会館だと控室といっても、シャワー室なんかついているはずがなくただの更衣室だった。
私はピンク色の衣装を脱ぎ落とし、肩にかけていたタオルで汗を拭いた。
その様子は他には見せられない。
今日はいつもの戦隊ヒーローショウのスタントマンとして、この市民会館に来ていた。
月に数回のこの仕事と、時々入る映画やドラマのアクションものの女優さんのスタントが私の今の一つの仕事そして・・・
気持ち良い汗に浮かれている私を現実に呼び戻す携帯電話が鳴った。
「おい。何呑気に休んでいる?早く戻ってこい」
電話の主は言いたいことだけ言うと、電話を切ってしまった。
「はいはい。すぐに参りますよ」
私は繋がっていない電話に舌を出して見せて、言い返した。
私のもう一つの仕事は、G-BOY事務所の雑用係。
特にあの人気だったSIX STARのメンバーの付き人兼マネージャー補佐みないな仕事をしている。
あのデビューした日からもう5年も経ってしまった。
今はSIX STARの恵はもういない。
デビュー後すぐに脱退したことになっている。(海外芸能留学だとか・・・)
初めの半年くらいは騒がれていたが、その後のSIX STARの活躍で幻の6人目の存在は世間の意識からかき消されてしまっている。
そうして、しばらくの沈黙の後、私は髪型を変え、性別を正常に戻し人気の陰に隠れるように事務所で働かされていた。
恵だった私を知りえる人には、私は恵の妹であることになっている。
私は、背中くらいまで伸びた髪をまとめ上げて眼鏡をかける。そして、マネージャーらしくダークな目立たないスーツに着替えると事務所へタクシーで事務所に戻った。
今日は、大河ドラマ撮影終了の打ち上げがある。主役を務めた龍星は、もちろん今日の主役だった。
デビュー5年での大河ドラマ主役抜擢で、世間の風当たりはきつかったが、終わってみたら歴代に残るほどの視聴率だった。
「もー、私が行かないといけないのかしら?」
私がどの位置になっても、龍星は相変わらずリーダーだったころのように接してくる。
私はタクシーの中で大きくため息をついた。
事務所の控室。龍星くらいに人気があると、小さいけど個室が与えてもらえた。
ノックして入ると、腕組みをしている後姿の龍星がいた。
「遅くなりました」
私はまた、怒られるのか思っていたが、振り返った龍星は微笑んでいた。
そして、キョトンとしている私の腕を掴むと自分の方に引き寄せた。
私は勢いよく龍星の腕の中に包み込まれてしまった。
「めぐみ」
龍星が私の名前を呼ぶ。プライベートの2人きり限定で彼は私の名前を甘くささやく。
何度聞いても慣れない。全身が熱くなってショート寸前になる。
「もう、待てない」
(何??)
意味深なことを言いながら、彼は私の首筋にキスをする。
私たちは表立っては無理だけど、陰ながらお付き合いをしてきた。
そんな関係だけど、未だに私はどうしていいのか分からない。
だって、彼は今や国民的スターになっているし、最近はこんなに近くにいるのにすごく遠い気がして落ち込んだりもした。
そんな彼が今何を言おうとしているのか?
考えようとしても、彼の口づけで頭が真っ白になる。
「結婚しよう」
彼の口づけが首筋から頬そして、私の左手を取り口づけした後のその指先に指輪が差し込まれていた。
「え?」
あまり唐突で、自分でも笑えるくらい間の抜けた答えを返してしまった。
龍星は大きくため息をついた後、
「本当に、お前は・・・」
と、つぶやく。
そして、今度は唇に熱いキスをした後、
「返事は?」
とやさしい顔で首をかしげた。
「は、はい。お願いします」
私が真面目に返したのに、それに腹を抱えんばかりに彼は大笑いだった。
「そ、そんなに笑わなくたって・・・」
私は拗ねる。
そこへいきなり扉が開いて、みんなが入ってきた。
「ちぇ、OKだったんか?その雰囲気じゃ」
入って来るなり十作が言う。SIX STARのメンバーが勢揃いだった。
その中で、龍星は黙って私の左手を高らかに上げて見せた。
「いつでも、僕が待っているからね。龍星が浮気したらな」
瑞貴が笑って言う。
「しないぞ」
「めぐみが俺とどう?」
今度は哉斗がからかう。
「それは・・・」
「駄目に決まっているだろ!」
最後は完全にいつもの龍星に戻って怒っっているのだった。
嵐のような5年間だった。
西野にはすっかり呆れられるし、雪野には何度も気を失わせるほど驚かせたに違いない。
でも、事務所のトップのあの人は・・・
意外に楽しんでいただけたようだった。
事務所を上げて、全面的にSIX STARを守ってくれていたし、それに・・・
「ええ~~、復活ライブ??」
結婚式に復活ライブを決行せよとのお達しがきた。
あの人曰く、内輪の式になるのだからOKじゃん。だそうだ。
「復活ライブって?」
もちろん、恵が海外から帰ってくるらしい。という話になる。
私と龍星は顔を見合わせて苦笑した。
周りはなんだか他人事で着々と何やら企んでいるようだ。
「仕方ないな。やるしかないだろ」
龍星はあきらめたように言った。
「やるしかって?」
私は恐る恐る聞いてみた。
その顔を見て、龍星はニヤっとする。
まさか・・・
そのまさかだろう。私が一人二役するだけのことだ。って彼の顔に書いてある。
「はあ~~」
私は大きくため息をついた。
「じゃ、そういうことで、明日から特訓だな」
やっぱりそういうことになると思った。
「・・・はい・・・」
小さく返事した私に、彼は抱き着いてきながら、耳元でささやいた。
「今から特訓しますか?奥さん」
私の嵐はまだまだこれからも続きそうな予感がした。
私は彼の腕の中に包まれながら、後悔にならない幸せな(?)後悔をするのだった。
- FIN -
「お疲れ様でした」
「お疲れ」
「お疲れ様。よかったよ」
私はしっとりと汗ばんだ体で、肩からタオルをかけてあいさつをしながら控室にもどった。
市民会館だと控室といっても、シャワー室なんかついているはずがなくただの更衣室だった。
私はピンク色の衣装を脱ぎ落とし、肩にかけていたタオルで汗を拭いた。
その様子は他には見せられない。
今日はいつもの戦隊ヒーローショウのスタントマンとして、この市民会館に来ていた。
月に数回のこの仕事と、時々入る映画やドラマのアクションものの女優さんのスタントが私の今の一つの仕事そして・・・
気持ち良い汗に浮かれている私を現実に呼び戻す携帯電話が鳴った。
「おい。何呑気に休んでいる?早く戻ってこい」
電話の主は言いたいことだけ言うと、電話を切ってしまった。
「はいはい。すぐに参りますよ」
私は繋がっていない電話に舌を出して見せて、言い返した。
私のもう一つの仕事は、G-BOY事務所の雑用係。
特にあの人気だったSIX STARのメンバーの付き人兼マネージャー補佐みないな仕事をしている。
あのデビューした日からもう5年も経ってしまった。
今はSIX STARの恵はもういない。
デビュー後すぐに脱退したことになっている。(海外芸能留学だとか・・・)
初めの半年くらいは騒がれていたが、その後のSIX STARの活躍で幻の6人目の存在は世間の意識からかき消されてしまっている。
そうして、しばらくの沈黙の後、私は髪型を変え、性別を正常に戻し人気の陰に隠れるように事務所で働かされていた。
恵だった私を知りえる人には、私は恵の妹であることになっている。
私は、背中くらいまで伸びた髪をまとめ上げて眼鏡をかける。そして、マネージャーらしくダークな目立たないスーツに着替えると事務所へタクシーで事務所に戻った。
今日は、大河ドラマ撮影終了の打ち上げがある。主役を務めた龍星は、もちろん今日の主役だった。
デビュー5年での大河ドラマ主役抜擢で、世間の風当たりはきつかったが、終わってみたら歴代に残るほどの視聴率だった。
「もー、私が行かないといけないのかしら?」
私がどの位置になっても、龍星は相変わらずリーダーだったころのように接してくる。
私はタクシーの中で大きくため息をついた。
事務所の控室。龍星くらいに人気があると、小さいけど個室が与えてもらえた。
ノックして入ると、腕組みをしている後姿の龍星がいた。
「遅くなりました」
私はまた、怒られるのか思っていたが、振り返った龍星は微笑んでいた。
そして、キョトンとしている私の腕を掴むと自分の方に引き寄せた。
私は勢いよく龍星の腕の中に包み込まれてしまった。
「めぐみ」
龍星が私の名前を呼ぶ。プライベートの2人きり限定で彼は私の名前を甘くささやく。
何度聞いても慣れない。全身が熱くなってショート寸前になる。
「もう、待てない」
(何??)
意味深なことを言いながら、彼は私の首筋にキスをする。
私たちは表立っては無理だけど、陰ながらお付き合いをしてきた。
そんな関係だけど、未だに私はどうしていいのか分からない。
だって、彼は今や国民的スターになっているし、最近はこんなに近くにいるのにすごく遠い気がして落ち込んだりもした。
そんな彼が今何を言おうとしているのか?
考えようとしても、彼の口づけで頭が真っ白になる。
「結婚しよう」
彼の口づけが首筋から頬そして、私の左手を取り口づけした後のその指先に指輪が差し込まれていた。
「え?」
あまり唐突で、自分でも笑えるくらい間の抜けた答えを返してしまった。
龍星は大きくため息をついた後、
「本当に、お前は・・・」
と、つぶやく。
そして、今度は唇に熱いキスをした後、
「返事は?」
とやさしい顔で首をかしげた。
「は、はい。お願いします」
私が真面目に返したのに、それに腹を抱えんばかりに彼は大笑いだった。
「そ、そんなに笑わなくたって・・・」
私は拗ねる。
そこへいきなり扉が開いて、みんなが入ってきた。
「ちぇ、OKだったんか?その雰囲気じゃ」
入って来るなり十作が言う。SIX STARのメンバーが勢揃いだった。
その中で、龍星は黙って私の左手を高らかに上げて見せた。
「いつでも、僕が待っているからね。龍星が浮気したらな」
瑞貴が笑って言う。
「しないぞ」
「めぐみが俺とどう?」
今度は哉斗がからかう。
「それは・・・」
「駄目に決まっているだろ!」
最後は完全にいつもの龍星に戻って怒っっているのだった。
嵐のような5年間だった。
西野にはすっかり呆れられるし、雪野には何度も気を失わせるほど驚かせたに違いない。
でも、事務所のトップのあの人は・・・
意外に楽しんでいただけたようだった。
事務所を上げて、全面的にSIX STARを守ってくれていたし、それに・・・
「ええ~~、復活ライブ??」
結婚式に復活ライブを決行せよとのお達しがきた。
あの人曰く、内輪の式になるのだからOKじゃん。だそうだ。
「復活ライブって?」
もちろん、恵が海外から帰ってくるらしい。という話になる。
私と龍星は顔を見合わせて苦笑した。
周りはなんだか他人事で着々と何やら企んでいるようだ。
「仕方ないな。やるしかないだろ」
龍星はあきらめたように言った。
「やるしかって?」
私は恐る恐る聞いてみた。
その顔を見て、龍星はニヤっとする。
まさか・・・
そのまさかだろう。私が一人二役するだけのことだ。って彼の顔に書いてある。
「はあ~~」
私は大きくため息をついた。
「じゃ、そういうことで、明日から特訓だな」
やっぱりそういうことになると思った。
「・・・はい・・・」
小さく返事した私に、彼は抱き着いてきながら、耳元でささやいた。
「今から特訓しますか?奥さん」
私の嵐はまだまだこれからも続きそうな予感がした。
私は彼の腕の中に包まれながら、後悔にならない幸せな(?)後悔をするのだった。
- FIN -