SIX STAR ~偽りのアイドル~
第1章 初めてのオーディション
初めて応募して、初めてオーディションに臨んだ。
初回で受かるなんて毛頭思っていなかったし、ましてや男に変装してバレないで受かってしまうなんて・・・
「乃木 恵(けい)君?」
スポットライトを浴びた後、黒子のようなスタッフに背中を押されてステージの前に出された私は、もの凄い音響と歓声の中で頭が真っ白になって何も考えられないままだった。
その後どうやってステージを降りて、今までいた控室とは違う部屋(ここ)まで来たのかまったく覚えていない。
そんな呆けていた私に、同じ年くらいの男の子が笑顔で話しかけてきた。
「僕は、正岡 瑞貴(みずき)今日から同じメンバーとしてよろしくね」
そういうと、瑞貴は右手を出した。
私は戸惑ってすぐに反応できなかったが、遅れて同じく右手を出して彼の手を握ったあと、
「よ・よろしく」
と挙動不審に頭を下げた。
改めて瑞貴を見ると、彼の目線は私より少し下で(私より少し背が低い)女の私でもドッキとするほど大きな瞳をしていた。
私の両親は昔バスケットの実業団に所属していた。だから両親はともに背が高い。
おかげで、その子供様も・・・
上の兄は185cm 下の兄ははっきり測っていないというけど190cm近くあると思う。
もちろん・・・私も女ながら175cmくらいはある。(それでも私は母よりは少し小さいくらいだ。)
女としては大きい体に、母よりも父に似た彫の深い顔で、昔から女にみられた事があまりない。
目の前に居るこの瑞貴の方が、私よりよっぽど女の子に見えると思う。
「恵君はどこ出身なの?僕は出身、千葉なんだ」
「ぼ・僕?僕は愛知・・・名古屋から来た」
「そうなんだ」
落ちついて考えながら話をしたいのに、瑞貴はまぶしすぎるほど無垢な笑みを浮かべながら話しかけてくるからまともに会話もできない。ついどもってしまった。
この部屋には私と瑞貴の他に4人、さっき私と同じように選ばれた人みたいだ。
1人は床に座り込んで寝ている男。壁際の椅子に足を組んで座っている男。残りの2人は私達と同じように話をしている。
残りの2人の会話から聞こえてくるイントネーションから、片一方は関西の人なんだとわかった。
戦隊もののオーディションにしては配役として6人は多い気がする。
(だいたいが5人と決まっているようなものだ。)
それにお決まりであるがピンクの役で1人女の子がいるはずなのだけど、この中に女の子の姿はなかった。
それとも・・・やっぱり、私が女だとバレちゃったのだろうか・・・
そんなことを考えていると、部屋のドアが開き黒のスーツを着た男と女が入って来た。
「集まってくれ」
先に入って来たうちの上の兄くらいの長身の男が、私たちに呼び掛けてきた。
関西人とその相棒、椅子に座っていた人、私と瑞貴、最後に眠たそうな様子で床に座っていた人がのんびり彼の周りに集まって並んだ。
私たちに呼び掛けた男は、歳は30歳くらい。
モデルといってもいいほどに整った顔をしているのに、なぜか怒っているみたいに眉根を寄せて難しい顔をしている。
彼はその険しい表情のまま、それ以上何もいうことなくその場から一歩下がった。
その代わりに、彼の後ろで隠れるように続けて部屋に入って来たメガネの女が転がるみたいに前に出て来た。
彼女は彼とは対照的に、地味な印象で何処にでもいるような事務のお姉さんのような雰囲気だった。
「あ・あの。み・みなさんこんにちは。じゃ、ないか??初めまして。ですかね?」
どもりながら話をし始める。
「わ・私があなた達のグループを担当させて戴くことになりました。マネージャーの雪野千里です。よろしくお願いします」
雪野はそう言って、深く頭を下げた。
(グループ?・・・マネージャー?)
訳が分からなくて、私が頭の中でグルグル考えている間に、前に立っていた2人はまた立ち位置を交代して先ほどのモデル男が今度は前に立っていた。
「私は、西野祐二という」
西野はそこで一呼吸をおいた。
「君たちは、今日の公開オーディション選ばれた。たった今からG-BOYSの一員だ」
(G-BOYS???)
G-BOYSといえば、女の子らしい生活を全くしてこなかった私でも知っている、男の子ばかりのアイドルグループを輩出する芸能プロダクションだ。
「今日から君たちは『SIX STAR』というグループとしての活動をしてもらう。今までのように甘い考えでは通用しない。まして、今回の君たちのグループには大変なマネー(金)がつぎ込まれている。失敗は許されないことを肝に銘じておいてもらいたい。私からはこれだけだ」
西野はそこまで言い終えると、踵を返して部屋から出て行った。
残されたのはオドオドしている雪野と私たち6人だけだった。
「それでは、詳しい打ち合わせを」
雪野がそこまでいいかけたとき、
「ちょ・ちょっと待ってください」
私は無意識に口に出していた。
「こ・これって、戦隊もののオーディションじゃなかったのですか??」
「なんや、お前おもろいな」
私たちはまたあのままの部屋に放置されて20分が経過していた。
急な私の発言で『詳しい説明』というのが延期され、雪野が顔面蒼白状態でこの部屋から退場していったのだった。
一列に並んで集まっていた私達も20分後にはそれぞれ前位置に解散し、椅子に座っていた人は椅子に座り、床に寝ていた人は床に寝ていた。
残りは瑞貴と私のところに関西人とその相棒が合流する形をとった。
「恵君、このオーディション受けに来たわけじゃなかったの?」
瑞貴は大きな瞳で上目づかいに私を見上げて言った。
私は言葉を発する気になれず、頷いただけだった。
「おまえ、恵っていうんか?俺は本間十作。じいさんみたいって思うたやろ。じいさんが名付けやがったんや。やんなるわ、ほんまに」
関西人はまるでずっと友達だったみたいな親しさで自己紹介をした。
十作は茶髪のライオンみたいなの髪型で、目がつりあがった肉食動物的な印象の人だった。
「恵君。はじめまして。僕は兼松謙太。よろしく」
関西人の相棒は、標準語で自己紹介をしてきた。謙太は目はそんなに大きくはないが眉が太くキリッとした日本男児を思わせるような顔つきをしている。
戦隊ものに例えるなら、十作はイエロー。謙太はブルー。瑞貴はピンク。そして私はやっぱりレッドだ。
「そういえば、隣のスタジオはファイヤーファイブの後継の戦隊ものオーディション会場になっていたような気がするよ。」
謙太は顎に手を持っていき、思い出したように言う。
そうか・・・やっぱり会場は間違っていなかったのか・・・でもなんでこっちに入れちゃったのかしら??
「いい迷惑だ」
頭の中で私がいろいろ考えていると、背後で吐き捨てるように誰かが言った。
「なんやと!」
十作がつりあがった目をよけいにつり上げ、声の主、椅子に座っている人に言い返した。
椅子に座った人は、冷たい視線で私を睨みつけながら、
「いい迷惑だと言っている。関係無い奴はさっさとここから出ていけばいいんだ」
付け加えて言いきった。
確かにその通りだと思った。私が受けにきたオーディションは戦隊ものなのだから。
「じゃ、僕も帰りたいな~~~」
はい。そうします。とでも言おうとした時、さっきまで床に寝ていた人がけだるそうに起き上がってやる気さなげな声をだした。
部屋の中は一触即発の事態にまでなっていた。
椅子の人と十作が睨み合い。床の人は人を馬鹿にしたような風で、火に油を注ぐような言動をする。
「ごめんなさい」
とりあえず謝るしかない。
「わた・・・僕が間違えてしまったのが悪かったです。あの男の人に訳を言って謝ってきます。本当にみなさんごめんなさい」
私はつい『私』と言いかけて、男のふりを続けた。
それまで嘘だとばれたら、椅子の人になんて言われるか・・・私は恐くなった。
瑞貴が私を止めようとしているのが分かったけど、それを振り切るように小走りに私はドアに近づいた。
「何をやっているんだ?」
ドアを開こうとした私の鼻先で、急にドアが開き西野が入って来た。
一歩後ずさりして見上げる私に、西野は睨みつけるように私を見下げる。
私はなんだか背筋が冷たくなる気がした。
「あ・あの。西野さん、ぼ・ぼく、何かの手違いで」
それでも、他人の迷惑になるようなことは断じていけない。謝らなければいけないことは、ちゃんと謝らなければいけない。
「このままいく」
「え?」
西野は私から視線を外さないで言いきった。
「この6人で『SIX STAR』だ。それに対しての変更は許されない。オーディションの要項に書かれてあったはずだ。オーディションに受かった場合は、契約成立とみなし不祥事があった場合は違約金が発生する。君はそれを払えるのか?」
「そ・そんな・・・」
「言っておくが、君たちにかけられる金は君たちには想像がつかない金額だ。よく肝に銘じておけ。以上だ。質問等は応じない」
西野はそこまで言い切ると、部屋を去って行った。
残されたのは、挙動不審の雪野と唖然として声の出せない私。そして残りのメンバーだった。
初回で受かるなんて毛頭思っていなかったし、ましてや男に変装してバレないで受かってしまうなんて・・・
「乃木 恵(けい)君?」
スポットライトを浴びた後、黒子のようなスタッフに背中を押されてステージの前に出された私は、もの凄い音響と歓声の中で頭が真っ白になって何も考えられないままだった。
その後どうやってステージを降りて、今までいた控室とは違う部屋(ここ)まで来たのかまったく覚えていない。
そんな呆けていた私に、同じ年くらいの男の子が笑顔で話しかけてきた。
「僕は、正岡 瑞貴(みずき)今日から同じメンバーとしてよろしくね」
そういうと、瑞貴は右手を出した。
私は戸惑ってすぐに反応できなかったが、遅れて同じく右手を出して彼の手を握ったあと、
「よ・よろしく」
と挙動不審に頭を下げた。
改めて瑞貴を見ると、彼の目線は私より少し下で(私より少し背が低い)女の私でもドッキとするほど大きな瞳をしていた。
私の両親は昔バスケットの実業団に所属していた。だから両親はともに背が高い。
おかげで、その子供様も・・・
上の兄は185cm 下の兄ははっきり測っていないというけど190cm近くあると思う。
もちろん・・・私も女ながら175cmくらいはある。(それでも私は母よりは少し小さいくらいだ。)
女としては大きい体に、母よりも父に似た彫の深い顔で、昔から女にみられた事があまりない。
目の前に居るこの瑞貴の方が、私よりよっぽど女の子に見えると思う。
「恵君はどこ出身なの?僕は出身、千葉なんだ」
「ぼ・僕?僕は愛知・・・名古屋から来た」
「そうなんだ」
落ちついて考えながら話をしたいのに、瑞貴はまぶしすぎるほど無垢な笑みを浮かべながら話しかけてくるからまともに会話もできない。ついどもってしまった。
この部屋には私と瑞貴の他に4人、さっき私と同じように選ばれた人みたいだ。
1人は床に座り込んで寝ている男。壁際の椅子に足を組んで座っている男。残りの2人は私達と同じように話をしている。
残りの2人の会話から聞こえてくるイントネーションから、片一方は関西の人なんだとわかった。
戦隊もののオーディションにしては配役として6人は多い気がする。
(だいたいが5人と決まっているようなものだ。)
それにお決まりであるがピンクの役で1人女の子がいるはずなのだけど、この中に女の子の姿はなかった。
それとも・・・やっぱり、私が女だとバレちゃったのだろうか・・・
そんなことを考えていると、部屋のドアが開き黒のスーツを着た男と女が入って来た。
「集まってくれ」
先に入って来たうちの上の兄くらいの長身の男が、私たちに呼び掛けてきた。
関西人とその相棒、椅子に座っていた人、私と瑞貴、最後に眠たそうな様子で床に座っていた人がのんびり彼の周りに集まって並んだ。
私たちに呼び掛けた男は、歳は30歳くらい。
モデルといってもいいほどに整った顔をしているのに、なぜか怒っているみたいに眉根を寄せて難しい顔をしている。
彼はその険しい表情のまま、それ以上何もいうことなくその場から一歩下がった。
その代わりに、彼の後ろで隠れるように続けて部屋に入って来たメガネの女が転がるみたいに前に出て来た。
彼女は彼とは対照的に、地味な印象で何処にでもいるような事務のお姉さんのような雰囲気だった。
「あ・あの。み・みなさんこんにちは。じゃ、ないか??初めまして。ですかね?」
どもりながら話をし始める。
「わ・私があなた達のグループを担当させて戴くことになりました。マネージャーの雪野千里です。よろしくお願いします」
雪野はそう言って、深く頭を下げた。
(グループ?・・・マネージャー?)
訳が分からなくて、私が頭の中でグルグル考えている間に、前に立っていた2人はまた立ち位置を交代して先ほどのモデル男が今度は前に立っていた。
「私は、西野祐二という」
西野はそこで一呼吸をおいた。
「君たちは、今日の公開オーディション選ばれた。たった今からG-BOYSの一員だ」
(G-BOYS???)
G-BOYSといえば、女の子らしい生活を全くしてこなかった私でも知っている、男の子ばかりのアイドルグループを輩出する芸能プロダクションだ。
「今日から君たちは『SIX STAR』というグループとしての活動をしてもらう。今までのように甘い考えでは通用しない。まして、今回の君たちのグループには大変なマネー(金)がつぎ込まれている。失敗は許されないことを肝に銘じておいてもらいたい。私からはこれだけだ」
西野はそこまで言い終えると、踵を返して部屋から出て行った。
残されたのはオドオドしている雪野と私たち6人だけだった。
「それでは、詳しい打ち合わせを」
雪野がそこまでいいかけたとき、
「ちょ・ちょっと待ってください」
私は無意識に口に出していた。
「こ・これって、戦隊もののオーディションじゃなかったのですか??」
「なんや、お前おもろいな」
私たちはまたあのままの部屋に放置されて20分が経過していた。
急な私の発言で『詳しい説明』というのが延期され、雪野が顔面蒼白状態でこの部屋から退場していったのだった。
一列に並んで集まっていた私達も20分後にはそれぞれ前位置に解散し、椅子に座っていた人は椅子に座り、床に寝ていた人は床に寝ていた。
残りは瑞貴と私のところに関西人とその相棒が合流する形をとった。
「恵君、このオーディション受けに来たわけじゃなかったの?」
瑞貴は大きな瞳で上目づかいに私を見上げて言った。
私は言葉を発する気になれず、頷いただけだった。
「おまえ、恵っていうんか?俺は本間十作。じいさんみたいって思うたやろ。じいさんが名付けやがったんや。やんなるわ、ほんまに」
関西人はまるでずっと友達だったみたいな親しさで自己紹介をした。
十作は茶髪のライオンみたいなの髪型で、目がつりあがった肉食動物的な印象の人だった。
「恵君。はじめまして。僕は兼松謙太。よろしく」
関西人の相棒は、標準語で自己紹介をしてきた。謙太は目はそんなに大きくはないが眉が太くキリッとした日本男児を思わせるような顔つきをしている。
戦隊ものに例えるなら、十作はイエロー。謙太はブルー。瑞貴はピンク。そして私はやっぱりレッドだ。
「そういえば、隣のスタジオはファイヤーファイブの後継の戦隊ものオーディション会場になっていたような気がするよ。」
謙太は顎に手を持っていき、思い出したように言う。
そうか・・・やっぱり会場は間違っていなかったのか・・・でもなんでこっちに入れちゃったのかしら??
「いい迷惑だ」
頭の中で私がいろいろ考えていると、背後で吐き捨てるように誰かが言った。
「なんやと!」
十作がつりあがった目をよけいにつり上げ、声の主、椅子に座っている人に言い返した。
椅子に座った人は、冷たい視線で私を睨みつけながら、
「いい迷惑だと言っている。関係無い奴はさっさとここから出ていけばいいんだ」
付け加えて言いきった。
確かにその通りだと思った。私が受けにきたオーディションは戦隊ものなのだから。
「じゃ、僕も帰りたいな~~~」
はい。そうします。とでも言おうとした時、さっきまで床に寝ていた人がけだるそうに起き上がってやる気さなげな声をだした。
部屋の中は一触即発の事態にまでなっていた。
椅子の人と十作が睨み合い。床の人は人を馬鹿にしたような風で、火に油を注ぐような言動をする。
「ごめんなさい」
とりあえず謝るしかない。
「わた・・・僕が間違えてしまったのが悪かったです。あの男の人に訳を言って謝ってきます。本当にみなさんごめんなさい」
私はつい『私』と言いかけて、男のふりを続けた。
それまで嘘だとばれたら、椅子の人になんて言われるか・・・私は恐くなった。
瑞貴が私を止めようとしているのが分かったけど、それを振り切るように小走りに私はドアに近づいた。
「何をやっているんだ?」
ドアを開こうとした私の鼻先で、急にドアが開き西野が入って来た。
一歩後ずさりして見上げる私に、西野は睨みつけるように私を見下げる。
私はなんだか背筋が冷たくなる気がした。
「あ・あの。西野さん、ぼ・ぼく、何かの手違いで」
それでも、他人の迷惑になるようなことは断じていけない。謝らなければいけないことは、ちゃんと謝らなければいけない。
「このままいく」
「え?」
西野は私から視線を外さないで言いきった。
「この6人で『SIX STAR』だ。それに対しての変更は許されない。オーディションの要項に書かれてあったはずだ。オーディションに受かった場合は、契約成立とみなし不祥事があった場合は違約金が発生する。君はそれを払えるのか?」
「そ・そんな・・・」
「言っておくが、君たちにかけられる金は君たちには想像がつかない金額だ。よく肝に銘じておけ。以上だ。質問等は応じない」
西野はそこまで言い切ると、部屋を去って行った。
残されたのは、挙動不審の雪野と唖然として声の出せない私。そして残りのメンバーだった。