SIX STAR ~偽りのアイドル~
第6章 あゆ
デビューしてちょうど1ヶ月が経った。
1年間の約束で始めたアイドルだけど、まだまだ慣れそうにない。
(今のところ奇跡的に女だとはバレていない。)
今日は歌番組の収録が予定されたいた。
デビュー曲とセカンドの『ファースト・キス』の2曲を歌う事になっていた。
1時間番組なのだけど、リハーサルを含めて収録にはかなり時間がかかっている。
出演者が5組で司会者とのトークの後に曲が流れる番組だ。
収録は有名なところからVIP対応でお待たせしないように行われるため、自分達と、一緒に出演する「ストロベリー10」はかなり待ち時間があった。
売り出し中で人気絶頂のアイドル2組なため、事務所の意向で待合室は少し距離がある。
それでも、女の子独特の華やかさは伝わって来た。
(あのあゆってこと、龍星の関係はなんなのかしら?)
時間が余るとロクな事を考えない。
今日も収録で一瞬すれ違ったとき、あゆは龍星のことを目で追っていた。
雰囲気からして昔からよく知った間柄。仲が良いには違いないけど、どことなく気不味い感じが2人には漂っていた。
「お前、あゆちゃんと知り合いなんか?」
こういう聞きにくいことをズバッと聞けてしまうのが、十作のいいところであり良くないところでもある。
「・・・」
もちろん龍星が答えるわけがないと思った。
「なあ、どうなんや」
しつこく聞けてしまうのも、十作ならではだ。
「小学校が一緒だっただけだ」
それに対して、珍しく龍星が答えた。
私が驚いていたのが分かったのか、龍星はチラッとこっちを向いてすぐに顔を背ける。
「なんや、幼馴染みなんか。俺らにも今度紹介してや」
十作は深い意味はなく、友達の友達はみんな友達みたいなノリで言ったと思う。
「断る」
今度はいつも通り・・・一刀両断の龍星だった。
「なんやそれ、腹立つわ。 もうええ」
そして、これもいつも通り十作がキレて会話終了になった。
幼馴染みにしても見ている限り、彼女と龍星の間には何かあるような気がしてならない。
何か話したそうな彼女と彼女をさけたい龍星そんな雰囲気が、鈍感な私にも伝わっていた。
テレビ局に入って3時間が経過していた。
私達メンバーが退屈してきたころ、雪野がようやく呼びに来た。
歌の収録のためにAスタジオに移動するように言われた。
ストロベリー10の収録のあとに自分たちがやるので、リハーサルも一緒に続けるようだった。
Aスタジオへ挨拶しながら入ると、ちょうどストロベリー10のリハーサルが終わるところだった。
ピンクと白と赤の衣装で太ももが露出する超ミニスカートをお揃いで履いている。
その格好で飛んだり跳ねたりするのだから、男じゃなくてもドキドキしてしまった。
(ああ、同じアイドルでもあっちじゃなくてよかった。)
彼女らのリハーサルが終わり、今度は私達と入れ替わる。
見たいわけじゃないけれど、龍星とあゆがすれ違う瞬間を目で追ってしまう。
そんな自分がなんだか薄っぺらくて、やな人間だと自己嫌悪になる。
私の思いとは反対に彼ら2人の様子は、プロ意識なのかちゃんとオンオフを切り替えていて目も合わせない。
そんな馬鹿なことに気を取られたせいで、自分のリハーサルは散々だった。振りは間違えるし、笑顔は作れない。
後からきっと龍星に怒られこと間違いなしだ。
リハーサルが終わって一旦休憩に控え室に戻らされたが、私は怒られるのが恐ろしくてトイレに逃げることにした。
「ねぇ」
誰もいない廊下を歩いていたら、後ろから声をかけられた。
「あなた、恵くんっていったかしら?」
振り返ると、そこにあゆがいた。
「う・うん。そ・そうだけど」
間近で見ると、あゆはちっちゃくて、とても華奢だった。
「お願いがあるの」
私よりかなり背が低いため、上目づかいでそう言われてしまうと、男だろうが女だろうが彼女のお願いに逆らえるわけなかった。
局にはAスタジオの他にもいくつか大小のものがある。
自分だけだと必ず迷子になるから、ここではトイレ以外には行かないことにしていた。
「どこへ行く?」
今、私は龍星を導いて、間違えないようにそして帰り道を記憶しながら歩いていた。
「ここだと思うから」
自信がなかったが、中に入るとさっきの半分以下くらいの小さいスタジオがあった。
ここまできたらスタジオ内に彼女が待っていて、私はここでお役ゴメンだ。
「龍星」
あゆは龍星のことを親しげに呼ぶ。
脇役は退場。 そっと部屋を出ようとしたが、
「おい」
なぜか龍星に腕を掴まれて動けない。顔を見れば不機嫌極まりない表情で睨み付けている。
まあ、騙して連れてきたのだから怒るのは無理ないけど、龍星もこの空気を読んで欲しかった。
「私が呼んできて欲しいってお願いしたの。怒らないであげて。ありがとう。恵くん」
あゆは再度、私に退場を促すが、龍星は私の腕を放さない。やっぱりこの2人の間には、何かあるのかもしれない。
龍星にとってはマイナス?? それであゆにとってはプラスな何かが?
私なんかに聞かれたくなかったみたいだったけど、諦めたのかあゆがため息を一度ついて話出した。
「おばさまが心配なさっていたわ。龍星、お願いだから・・・」
本当に心配しているような顔つきで彼女が言いかける。やっぱりあゆと龍星はかなり親しい仲なのだ。
「おい、行くぞ」
それなのに、龍星は彼女の言葉の途中で、私の腕を引っ張って帰ろうとする。
「で・でも」
大事な話だと思って、私は躊躇う。
「もう直ぐ本番なんだぞ。早く行くぞ」
怒ったように言う龍星に腕を引かれながら振り返りあゆを見ると、彼女が少し寂しげな表情でこちらを見ているのが分かった。
なんだか申し訳ないような気でいっぱいで、この龍星の態度に無性に腹が立ってきた。
半分くらい引きずられて帰って来たところで、私は彼の手を振り払い、
「引っ張るなよ。騙したみたいで悪かったけど、あの子なんか大事な事を言いたかったんじゃないか?」
彼女のことが可哀相になってきてつい言ってしまった。
なんだか、男にだけじゃなく女の子にも冷たい態度をとる龍星が許せない。
「・・・」
それにきっと言い返してくるだろうと思ったのに、彼はなぜか無言で睨みつけた私を見詰める。その顔は今まで見た事もない、寂しそうな悲しそうな・・・そんな顔見たことがない。
彼は結局そのまま何も言わなかった。
今夜は雪野の部屋に、メンバーが集まっていた。
今回の宴会は、この間収録した歌番組をみんなで見ようという会だった。
夜9時から始まる番組に合わせて、各自が好きな物を持ち寄って、飲んだり食べたりする。
もちろん未成年だから、ジュースではあるが・・・
いつも通り雪野は自分の部屋ながら隅っこに押しやられていた。
でも、この中にはやっぱり龍星の姿はない。
収録を見れば、あの時の気まずさを思い出すから、私もできればこれに参加したくはなかったのだけど、それを許してはもらえるはずがない。
番組は始めのオープニングで自分達が少し映り、しばらくは出てこない。
まだ知名度の低い自分たちは、残りの数分だけ映るくらいだろうと西野も言っていた。
始まって10分くらいして、
「僕、やっぱり、龍星を誘ってくるよ」
あんな龍星を見てしまって、自分だけみんなと和気あいあいでTV観賞をする気分にはならない。
誘ってみて駄目なら、自分もそのまま部屋に戻るつもりでいた。
盛り上がっているみんなの隙をみて、そっと部屋を出て1階の龍星の部屋まで降りた。
ピンポーン
チャイムを鳴らす。
しばらく反応はない。
もう一度鳴らしてみるが、やっぱり反応はない。
私が諦めて部屋に戻ろうと思っていると、
部屋の扉が開く音がした。
「なんだ?」
不機嫌なのか、ただ眠いのかわからない口調だった。
「あ・あのさあ。みんなでこの前のをTVで見ているからさ。龍星もどうかって思って」
「断る」
言いかける先から拒否だ。
「・・・」
ここまでは、予想はしていた。
そのまま扉を閉めてしまうのだろうと思っていたが、
「水、切らしている。コンビニ行くから、お前もつき合え」
龍星はそう言い、スウェットにジーンズというラフな服装で部屋から出て来た。
意外な反応に私はなにがなんだかわからないまま、バカみたいに龍星の後をついて行った。
先を歩く彼がそんな私の方を急に振り返って見る。驚いて挙動不審に固まる自分を見て、龍星は今までに一度も見た事がない笑顔を見せるのだった。
(なんだか、ドキドキする)
傍から見れば男同士の友達が、ただコンビニへ行っているだけに見えるはずだ。
私は兄弟が男だけだったから、男と並んで歩くことなんか普通で意識した事がない。
なのに、あの顔を見てしまった今、なんだか落ち着かない気持ちで一杯だった。
(今が夜でよかった)
コンビニへ向かう途中、龍星は何を話しかけてくるわけじゃなく、ただ黙って半歩前を歩いて行った。
コンビニについてから、自分がお財布持っていない事に気が付いて焦っていたら、自分にはミネラルウォーターで私にはカルピスウォーターを買ってコンビニからすぐ出て来た。
カルピスを私に無言で渡した龍星は、また半歩前を歩き、コンビニ近くの公園へ行った。
少し前にはここで特訓させられていたが、最近は忙しくてなかなか来れなくなった公園だ。
ここは小さい公園だが砂場やブランコもある。
龍星がブランコの方に行くので私も遅れて小走りにおっかけて付いて行った。
ブランコに座ると龍星はミネラルウォーターを開けて、一口飲みほした。
月が出ていて辺りはほんのりと明るく、龍星の顔がはっきりと見える。
「お前・・・恵は、このグループやめたいと思っているか?」
「え?」
いきなり言われて戸惑う。言いよどむ私の答えを待たずに、
「俺は、やめない。やめられない」
私を直視してはっきりとした口調で言い切る。
「誰もが認めるようなそんなグループになりたいと思っている。そのために俺はあのオーディションを受けた。」
「・・・」
「恵は?」
「ぼ・僕は・・・」
そんなに真剣に言われるとどう答えていいのか困ってしまう。
「僕は、みんなの迷惑ならないように頑張りたい・・・です」
なんだか小学生の作文のような答えになってしまった。
「ふっっ。」
それを聞いて噴き出した龍星は、またあの動機を呼ぶ笑みをする。
「恵らしい答えだな。自分が足を引っ張っているって自覚はあるみたいだな」
「ど・どういう意味?」
つい、女口調に戻りかけてしまう。
「やっぱり、お前にはこれからも特別特訓だな」
龍星はそれを聞き流して、私の顔を見て今度はニヤリとして言うのだった。
1年間の約束で始めたアイドルだけど、まだまだ慣れそうにない。
(今のところ奇跡的に女だとはバレていない。)
今日は歌番組の収録が予定されたいた。
デビュー曲とセカンドの『ファースト・キス』の2曲を歌う事になっていた。
1時間番組なのだけど、リハーサルを含めて収録にはかなり時間がかかっている。
出演者が5組で司会者とのトークの後に曲が流れる番組だ。
収録は有名なところからVIP対応でお待たせしないように行われるため、自分達と、一緒に出演する「ストロベリー10」はかなり待ち時間があった。
売り出し中で人気絶頂のアイドル2組なため、事務所の意向で待合室は少し距離がある。
それでも、女の子独特の華やかさは伝わって来た。
(あのあゆってこと、龍星の関係はなんなのかしら?)
時間が余るとロクな事を考えない。
今日も収録で一瞬すれ違ったとき、あゆは龍星のことを目で追っていた。
雰囲気からして昔からよく知った間柄。仲が良いには違いないけど、どことなく気不味い感じが2人には漂っていた。
「お前、あゆちゃんと知り合いなんか?」
こういう聞きにくいことをズバッと聞けてしまうのが、十作のいいところであり良くないところでもある。
「・・・」
もちろん龍星が答えるわけがないと思った。
「なあ、どうなんや」
しつこく聞けてしまうのも、十作ならではだ。
「小学校が一緒だっただけだ」
それに対して、珍しく龍星が答えた。
私が驚いていたのが分かったのか、龍星はチラッとこっちを向いてすぐに顔を背ける。
「なんや、幼馴染みなんか。俺らにも今度紹介してや」
十作は深い意味はなく、友達の友達はみんな友達みたいなノリで言ったと思う。
「断る」
今度はいつも通り・・・一刀両断の龍星だった。
「なんやそれ、腹立つわ。 もうええ」
そして、これもいつも通り十作がキレて会話終了になった。
幼馴染みにしても見ている限り、彼女と龍星の間には何かあるような気がしてならない。
何か話したそうな彼女と彼女をさけたい龍星そんな雰囲気が、鈍感な私にも伝わっていた。
テレビ局に入って3時間が経過していた。
私達メンバーが退屈してきたころ、雪野がようやく呼びに来た。
歌の収録のためにAスタジオに移動するように言われた。
ストロベリー10の収録のあとに自分たちがやるので、リハーサルも一緒に続けるようだった。
Aスタジオへ挨拶しながら入ると、ちょうどストロベリー10のリハーサルが終わるところだった。
ピンクと白と赤の衣装で太ももが露出する超ミニスカートをお揃いで履いている。
その格好で飛んだり跳ねたりするのだから、男じゃなくてもドキドキしてしまった。
(ああ、同じアイドルでもあっちじゃなくてよかった。)
彼女らのリハーサルが終わり、今度は私達と入れ替わる。
見たいわけじゃないけれど、龍星とあゆがすれ違う瞬間を目で追ってしまう。
そんな自分がなんだか薄っぺらくて、やな人間だと自己嫌悪になる。
私の思いとは反対に彼ら2人の様子は、プロ意識なのかちゃんとオンオフを切り替えていて目も合わせない。
そんな馬鹿なことに気を取られたせいで、自分のリハーサルは散々だった。振りは間違えるし、笑顔は作れない。
後からきっと龍星に怒られこと間違いなしだ。
リハーサルが終わって一旦休憩に控え室に戻らされたが、私は怒られるのが恐ろしくてトイレに逃げることにした。
「ねぇ」
誰もいない廊下を歩いていたら、後ろから声をかけられた。
「あなた、恵くんっていったかしら?」
振り返ると、そこにあゆがいた。
「う・うん。そ・そうだけど」
間近で見ると、あゆはちっちゃくて、とても華奢だった。
「お願いがあるの」
私よりかなり背が低いため、上目づかいでそう言われてしまうと、男だろうが女だろうが彼女のお願いに逆らえるわけなかった。
局にはAスタジオの他にもいくつか大小のものがある。
自分だけだと必ず迷子になるから、ここではトイレ以外には行かないことにしていた。
「どこへ行く?」
今、私は龍星を導いて、間違えないようにそして帰り道を記憶しながら歩いていた。
「ここだと思うから」
自信がなかったが、中に入るとさっきの半分以下くらいの小さいスタジオがあった。
ここまできたらスタジオ内に彼女が待っていて、私はここでお役ゴメンだ。
「龍星」
あゆは龍星のことを親しげに呼ぶ。
脇役は退場。 そっと部屋を出ようとしたが、
「おい」
なぜか龍星に腕を掴まれて動けない。顔を見れば不機嫌極まりない表情で睨み付けている。
まあ、騙して連れてきたのだから怒るのは無理ないけど、龍星もこの空気を読んで欲しかった。
「私が呼んできて欲しいってお願いしたの。怒らないであげて。ありがとう。恵くん」
あゆは再度、私に退場を促すが、龍星は私の腕を放さない。やっぱりこの2人の間には、何かあるのかもしれない。
龍星にとってはマイナス?? それであゆにとってはプラスな何かが?
私なんかに聞かれたくなかったみたいだったけど、諦めたのかあゆがため息を一度ついて話出した。
「おばさまが心配なさっていたわ。龍星、お願いだから・・・」
本当に心配しているような顔つきで彼女が言いかける。やっぱりあゆと龍星はかなり親しい仲なのだ。
「おい、行くぞ」
それなのに、龍星は彼女の言葉の途中で、私の腕を引っ張って帰ろうとする。
「で・でも」
大事な話だと思って、私は躊躇う。
「もう直ぐ本番なんだぞ。早く行くぞ」
怒ったように言う龍星に腕を引かれながら振り返りあゆを見ると、彼女が少し寂しげな表情でこちらを見ているのが分かった。
なんだか申し訳ないような気でいっぱいで、この龍星の態度に無性に腹が立ってきた。
半分くらい引きずられて帰って来たところで、私は彼の手を振り払い、
「引っ張るなよ。騙したみたいで悪かったけど、あの子なんか大事な事を言いたかったんじゃないか?」
彼女のことが可哀相になってきてつい言ってしまった。
なんだか、男にだけじゃなく女の子にも冷たい態度をとる龍星が許せない。
「・・・」
それにきっと言い返してくるだろうと思ったのに、彼はなぜか無言で睨みつけた私を見詰める。その顔は今まで見た事もない、寂しそうな悲しそうな・・・そんな顔見たことがない。
彼は結局そのまま何も言わなかった。
今夜は雪野の部屋に、メンバーが集まっていた。
今回の宴会は、この間収録した歌番組をみんなで見ようという会だった。
夜9時から始まる番組に合わせて、各自が好きな物を持ち寄って、飲んだり食べたりする。
もちろん未成年だから、ジュースではあるが・・・
いつも通り雪野は自分の部屋ながら隅っこに押しやられていた。
でも、この中にはやっぱり龍星の姿はない。
収録を見れば、あの時の気まずさを思い出すから、私もできればこれに参加したくはなかったのだけど、それを許してはもらえるはずがない。
番組は始めのオープニングで自分達が少し映り、しばらくは出てこない。
まだ知名度の低い自分たちは、残りの数分だけ映るくらいだろうと西野も言っていた。
始まって10分くらいして、
「僕、やっぱり、龍星を誘ってくるよ」
あんな龍星を見てしまって、自分だけみんなと和気あいあいでTV観賞をする気分にはならない。
誘ってみて駄目なら、自分もそのまま部屋に戻るつもりでいた。
盛り上がっているみんなの隙をみて、そっと部屋を出て1階の龍星の部屋まで降りた。
ピンポーン
チャイムを鳴らす。
しばらく反応はない。
もう一度鳴らしてみるが、やっぱり反応はない。
私が諦めて部屋に戻ろうと思っていると、
部屋の扉が開く音がした。
「なんだ?」
不機嫌なのか、ただ眠いのかわからない口調だった。
「あ・あのさあ。みんなでこの前のをTVで見ているからさ。龍星もどうかって思って」
「断る」
言いかける先から拒否だ。
「・・・」
ここまでは、予想はしていた。
そのまま扉を閉めてしまうのだろうと思っていたが、
「水、切らしている。コンビニ行くから、お前もつき合え」
龍星はそう言い、スウェットにジーンズというラフな服装で部屋から出て来た。
意外な反応に私はなにがなんだかわからないまま、バカみたいに龍星の後をついて行った。
先を歩く彼がそんな私の方を急に振り返って見る。驚いて挙動不審に固まる自分を見て、龍星は今までに一度も見た事がない笑顔を見せるのだった。
(なんだか、ドキドキする)
傍から見れば男同士の友達が、ただコンビニへ行っているだけに見えるはずだ。
私は兄弟が男だけだったから、男と並んで歩くことなんか普通で意識した事がない。
なのに、あの顔を見てしまった今、なんだか落ち着かない気持ちで一杯だった。
(今が夜でよかった)
コンビニへ向かう途中、龍星は何を話しかけてくるわけじゃなく、ただ黙って半歩前を歩いて行った。
コンビニについてから、自分がお財布持っていない事に気が付いて焦っていたら、自分にはミネラルウォーターで私にはカルピスウォーターを買ってコンビニからすぐ出て来た。
カルピスを私に無言で渡した龍星は、また半歩前を歩き、コンビニ近くの公園へ行った。
少し前にはここで特訓させられていたが、最近は忙しくてなかなか来れなくなった公園だ。
ここは小さい公園だが砂場やブランコもある。
龍星がブランコの方に行くので私も遅れて小走りにおっかけて付いて行った。
ブランコに座ると龍星はミネラルウォーターを開けて、一口飲みほした。
月が出ていて辺りはほんのりと明るく、龍星の顔がはっきりと見える。
「お前・・・恵は、このグループやめたいと思っているか?」
「え?」
いきなり言われて戸惑う。言いよどむ私の答えを待たずに、
「俺は、やめない。やめられない」
私を直視してはっきりとした口調で言い切る。
「誰もが認めるようなそんなグループになりたいと思っている。そのために俺はあのオーディションを受けた。」
「・・・」
「恵は?」
「ぼ・僕は・・・」
そんなに真剣に言われるとどう答えていいのか困ってしまう。
「僕は、みんなの迷惑ならないように頑張りたい・・・です」
なんだか小学生の作文のような答えになってしまった。
「ふっっ。」
それを聞いて噴き出した龍星は、またあの動機を呼ぶ笑みをする。
「恵らしい答えだな。自分が足を引っ張っているって自覚はあるみたいだな」
「ど・どういう意味?」
つい、女口調に戻りかけてしまう。
「やっぱり、お前にはこれからも特別特訓だな」
龍星はそれを聞き流して、私の顔を見て今度はニヤリとして言うのだった。