SIX STAR ~偽りのアイドル~
第8章 バイクと飛行機
いろいろあったけど、無事に『サンダーズ・TIME』を収録して、オンエアが終わると私たちの人気は一段と高くなっていった。
これは実力というより、西野の思惑通りになっているということなのだろう。
いろいろな歌番組にも毎週のように出演が決まり、バラエティー番組にも出るようになった。
そんな忙しい毎日の中、なぜか西野が私達にオフ日を作ってくれた。
彼曰わく、
『2日間休みをやるが、その後は馬車馬のように働かせる』
そうだ。
「恵くんは休みどうするの?」
収録帰りの車の中は休みをどうするかの話で持ち切りだった。
私たちは今、どこへ行くにも事務所が用意してくれたワゴン車で移動している。
少しは名が売れ出したので、混乱を防ぐ目的もあるが、どうもあまり表に出ない秘密な感じいいみたい。
そこが人気上昇の牽引にもなっているらしいかった。
瑞貴に、反対にどうするかを聞き返すと、瑞貴は一度実家に帰ってみるという。
「僕は予定ないから、こっちに残るよ」
私は実家なんかに帰るわけにはいかない。
どこで素性がバレるかわからないのもあるし、実家に帰っても誰も待っているわけでもない。
車の中でメンバーはそれぞれどうするか言ってたが、個々に用事をつくっているようだった。
マンションに誰も残らないのであれば、自分にとってはそれはそれで楽ちんだ。
自分の部屋の中なら気が緩んで多少の女が出ても誰もいなけりゃバレもしない。
1人マンションに残るという私に対してメンバーそれぞれが一緒に過ごさないかと誘ってくれたけど笑顔で断った。
「一緒に大阪いかんか?」
それでも最後まで十作が食い下がってくる。
親切なのか・・・おせっかいなのか・・・
何とか丁重にお断りして、不満げだったけど仕方がなくあきらめてくれた。
車がマンションに到着すると、みんなは早速簡単な変装をして出かけて行った。
そんなみんなを笑顔で見送った私はいつものように、楽ちんなプーマのジャージに着替えると、コンビニへ向かう。
ちょうど日が暮れて2時間ほどたった休日。人通りも少なくなってきていた。
今日は心置きなく少女マンガでも買ってやろう。2冊・・・いやまとめ買いして読み漁ってやろう。
そんな小さい欲望を抱いて私は、足軽やかにコンビニへの道のりを行く。
別に視線を持っていく必要はないのに、なぜだかあの道途中のコンビニに視線を向けてしまった。
そこには・・・
人気のいない公園。そこにはカップルというにはなんだか深刻な2人がいた。
声は聞こえてこないけど、何か言い合いをしているようだった。言い合いといっても一方的に女のほうが何かを言っていて、そして男は聞こうとしていないそんな風だった。
道のほうに顔を向けているのが男で、背を向けているのが女。
その顔を見て、
(りゅ・龍星?)
こっちを向いている男は龍星だ。
(まずい。早くここ離れなきゃ)
急いでその場を離れようとしたときにはもう遅かった。
話が決裂したのか背を向けていた女がいきなり振り返って彼の前から走り去った。
それで、走り去るその方向はたまたま入り口近くにいた私の方・・・
(これってさあ~)
これまずくない? 絶対まずいって!!
まじまじ見てはいけない気がして顔をそむけたのに、私とすれ違った女はなぜか私の前で足を止める。
反射的に下を向いた私の目に入ったのはピンク色のハイヒール。
いつまでも佇むその足元から視線を上げると、予想はしていたが、目の前にがあゆがいる。
(なんちゅうタイミングの悪さ・・・)
自分の不運を恨む。
すごい目で私を睨み付けていたのに、彼女は何も言わないでその場を走り去ってくれた。
(よかった~)
そんな安堵はすぐに、また違う緊張に代わる。
「実家に帰ったんじゃないのか?」
さっきまでトラブっていた人とは思えないような、自然な会話だった。
「あ、あ、ああ、まあね。 それじゃあ 」
この前からなんだかこの2人の邪魔ばかりしているようで気まずい。私は短く答えてその場をさっさと離れるつもりだった。
「なあ。」
去りゆく私の腕を龍星が掴むから、こけそうになったじゃないか。
「お前は・・・」
前のめりになる自分の体を龍星の腕が抱きとめる。それはあの収録の時みたいに。
「だ・大丈夫だよ。ごめん。あはは」
笑ってごまかすしかない。彼の腕からさっと身を引きながら後ずさった。
きっと今、動揺して顔真っ赤だ私。
焦る私に対して、
「お前、休み暇なの?」
冷静な彼の言葉。私のドジぶりに彼は動じなくなってきている。
「え?まあ。うん。」
それに反して、男の振りをしているのに男に免疫がない自分は動揺し過ぎだ。
これじゃ、挙動不審人物じゃないか。
「じゃ、俺に付き合え」
「?」
「行くぞ」
私は訳の分からないまま、彼に引きずられてコンビニとは反対方向のマンションへ戻らされる。
そして、なぜか私は、夜の首都高を南下して走るバイクに乗っていた。
龍星の背につかまり、後ろで相手の迷惑にならないようにだけ考えていた。
「自分で乗るんだろ? 後ろじゃ物足りないと思うけど」
と意味ありげに笑った後、龍星は自分を乗せて走り出した。
本当のところバイクの免許を取得したのは最近だ。乗るといっても数回しか乗ったことがない。
いわゆるペーパーライダーなのだ。
もちろん、教習で先生に乗せてもらったことはあったが、公道でのタンデムは今日がはじめてだった。
(また来た来た)
道路は程よいくらいにカーブがあり、もちろん龍星は容赦がなく車体を倒してあまり減速しないで突っ込んでいく。
(私は荷物。荷物と思おう)
いくら怖くても、カーブでライダーと同じように傾かないと車体は曲がってくれない。
だから、自分がバイクの後ろにくくりつけられてる荷物になった気持ちで彼の背中にしがみついていた。
必死に格闘しているうちに、龍星の目的地に着いたらしい。首都高から降りてどこなのか見当もつかないところでバイクは止まった。
彼がバイクを降りたから、私もふらつく足で地面に着地して彼の後を追ってついて行った。
修学旅行くらいしか来たことのない東京で私はもう今どこにいるかさえわからない。
公園みたいなところを歩き、開けた場所に出た途端目の前に見えるのは海。
東京にこんなところがあるなんて・・・
到着時間はそんなに遅い時間でもない。そこには、カップルや親子づれがそこそこいる。
その時だった。
私たちの頭上を飛行機が通り抜けて行った。
「うわ~~」
私は思わず声を上げてしまった。
「ぷっ。あははは」
間抜けな私の声を聴いて、龍星が噴出して大笑いだ。
「わ・笑うなよ」
龍星あまりにも大うけするから、ムッとして男口調で抗議する。
「あ、ああ。ごめんごめん。あんまりにも予想通りの反応で笑えた。お前といるとほんとに飽きないな。」
「どういう意味ですか?」
「そのままだ。あ、ああ。でもその反応、なんだかホッとする。 これ、俺なりに褒めているから」
なんだかけなされているのか褒められているのかわからない感じだった。
でも、なんだか龍星が笑ってくれるとうれしい。まあそれは深い意味ではなく、怒られることが多いせいだとは思うけど。
私たち2人は傍から見れば男同士、友達同士な感じで海岸を歩く。
「俺、昔からよくここに来て、空を見る。ここに来ると、あの飛行機に乗って、どこか飛んでいけるような気がして、ポジティブになった。お前はさあ・・・そんなとこないか?」
砂浜に胡坐をかいて座り、海を見ていた。
「あんまりかな。ここみたいに海ないし、川もなかったし・・・いいとこじゃないからな。」
家の近くにもしこんないいところがあれば、自分も通うだろうな。
「そうか」
「ああ、でも僕はそんなにストレスになることもなかったし、ストレス感じる暇がなかった。習い事で忙しかったしな」
「習い事?」
「うん。空手・体操・スポーツジムとかね。だって、僕は特撮ヒーロー目指していたから」
「ああ、そうだったな」
龍星はそこでまた笑った。
今日の龍星はどこか違う気がした。やわらかいというか、この場所がそうさせているのかもしれない。
「龍星もなんかやっていただろ?歌もうまいし、ダンスだって」
「俺の場合は、生まれながらっていうかな。」
「?」
私は訳が分からなかったけど、そこは聞いてはいけない気がして何も言わなかった。
「あゆ・・あいつは幼馴染なんだ。おせっかいというのか、面倒見がいいというのか・・・」
龍星は私に自分ことを話そうとしてくれていた。
「俺の父親、湯沢修なんだ」
(ゆざわおさむ?)
湯沢修といえば、花井恵子とおしどり夫婦で有名な人気俳優だ。
「もちろん、母親は花井恵子じゃないけどな」
龍星そこで冷めた笑いをして黙り込んだ。
湯沢修の愛人の子だという。湯沢と花井との間には子供はいなかったはずだから、湯沢にとっては龍星一人が本当の子供だということだ。
私はそれにどう返答したらいいのかわからなくて黙って聞いていた。
「俺のデビューが決まって、花井が俺に会いたいと言っているだと。あれほど俺や母に・・・してきたくせに、いいろいろバックアップするだとよ。いらねぇつうの」
吐き捨てるように龍星はいう。
しばらくの無言が私たちを包んだ。また、私たちの頭上をまた飛行機が通り過ぎて行った。
「うわ~~」
気まずい沈黙を破って、龍星が叫んだ。
「ドジだし、考えなしだし、危なっかしいし、どうしょもないお前なんかに絶対に言う気なかったのになァ。なんでかな?言っちまったし俺。自分で笑える」
彼はそういいつつやさしい笑みを浮かべていた。その顔を見て私はホッとして、
「ひどいなァ~。これでも僕はしっかりしてるんだよ。なんでも言いってくれよ! い・つ・で・も、相談に乗るからさ。」
明るく私も冗談で返す。
「わかった。そうさせてもらうよ」
(え?)
私をまっすぐ見る龍星の目は、もう冗談ではなかった。砂浜についていた私の右手に龍星の左手がふれて、なぜかそのまま握ってきた。
(なに?なに?)
そんなの初めての経験だし(女としても)、ましてや今は男の振りをしている。だから、男同士の友達でも手を握ったりするものなのかしら?? 焦りながら頭の中でぐるぐる考えていた。
「お前は本当に隙だらけだな。他の奴には絶対隙見せるなよ。男だろうが、お・ん・なだろうが容赦ないのがこの世界だからな。」
龍星は手を放すと、いつものようなきつい口調に戻っていた。
「さ、帰るぞ。どうせあいつら、帰るっていいながら戻ってきているはずだからな」
先に立ち上がると、龍星は私の腕をつかんで立ち上がらせてくれた。
「うん」
私はなんだかもう少し龍星とこうしていたいような気がしていた。
そんな女的な考え方を考える自分に動揺していた。
「早く来い。置いていくぞ。」
「あ・待ってくれよ。」
龍星は戸惑う私を置いてどんどん行ってしまう。
私は龍星の背中を追って、駆け出した。
(今は私は男なんだ。しっかりしなきゃ)
私は自分に言い聞かせるのだった。
これは実力というより、西野の思惑通りになっているということなのだろう。
いろいろな歌番組にも毎週のように出演が決まり、バラエティー番組にも出るようになった。
そんな忙しい毎日の中、なぜか西野が私達にオフ日を作ってくれた。
彼曰わく、
『2日間休みをやるが、その後は馬車馬のように働かせる』
そうだ。
「恵くんは休みどうするの?」
収録帰りの車の中は休みをどうするかの話で持ち切りだった。
私たちは今、どこへ行くにも事務所が用意してくれたワゴン車で移動している。
少しは名が売れ出したので、混乱を防ぐ目的もあるが、どうもあまり表に出ない秘密な感じいいみたい。
そこが人気上昇の牽引にもなっているらしいかった。
瑞貴に、反対にどうするかを聞き返すと、瑞貴は一度実家に帰ってみるという。
「僕は予定ないから、こっちに残るよ」
私は実家なんかに帰るわけにはいかない。
どこで素性がバレるかわからないのもあるし、実家に帰っても誰も待っているわけでもない。
車の中でメンバーはそれぞれどうするか言ってたが、個々に用事をつくっているようだった。
マンションに誰も残らないのであれば、自分にとってはそれはそれで楽ちんだ。
自分の部屋の中なら気が緩んで多少の女が出ても誰もいなけりゃバレもしない。
1人マンションに残るという私に対してメンバーそれぞれが一緒に過ごさないかと誘ってくれたけど笑顔で断った。
「一緒に大阪いかんか?」
それでも最後まで十作が食い下がってくる。
親切なのか・・・おせっかいなのか・・・
何とか丁重にお断りして、不満げだったけど仕方がなくあきらめてくれた。
車がマンションに到着すると、みんなは早速簡単な変装をして出かけて行った。
そんなみんなを笑顔で見送った私はいつものように、楽ちんなプーマのジャージに着替えると、コンビニへ向かう。
ちょうど日が暮れて2時間ほどたった休日。人通りも少なくなってきていた。
今日は心置きなく少女マンガでも買ってやろう。2冊・・・いやまとめ買いして読み漁ってやろう。
そんな小さい欲望を抱いて私は、足軽やかにコンビニへの道のりを行く。
別に視線を持っていく必要はないのに、なぜだかあの道途中のコンビニに視線を向けてしまった。
そこには・・・
人気のいない公園。そこにはカップルというにはなんだか深刻な2人がいた。
声は聞こえてこないけど、何か言い合いをしているようだった。言い合いといっても一方的に女のほうが何かを言っていて、そして男は聞こうとしていないそんな風だった。
道のほうに顔を向けているのが男で、背を向けているのが女。
その顔を見て、
(りゅ・龍星?)
こっちを向いている男は龍星だ。
(まずい。早くここ離れなきゃ)
急いでその場を離れようとしたときにはもう遅かった。
話が決裂したのか背を向けていた女がいきなり振り返って彼の前から走り去った。
それで、走り去るその方向はたまたま入り口近くにいた私の方・・・
(これってさあ~)
これまずくない? 絶対まずいって!!
まじまじ見てはいけない気がして顔をそむけたのに、私とすれ違った女はなぜか私の前で足を止める。
反射的に下を向いた私の目に入ったのはピンク色のハイヒール。
いつまでも佇むその足元から視線を上げると、予想はしていたが、目の前にがあゆがいる。
(なんちゅうタイミングの悪さ・・・)
自分の不運を恨む。
すごい目で私を睨み付けていたのに、彼女は何も言わないでその場を走り去ってくれた。
(よかった~)
そんな安堵はすぐに、また違う緊張に代わる。
「実家に帰ったんじゃないのか?」
さっきまでトラブっていた人とは思えないような、自然な会話だった。
「あ、あ、ああ、まあね。 それじゃあ 」
この前からなんだかこの2人の邪魔ばかりしているようで気まずい。私は短く答えてその場をさっさと離れるつもりだった。
「なあ。」
去りゆく私の腕を龍星が掴むから、こけそうになったじゃないか。
「お前は・・・」
前のめりになる自分の体を龍星の腕が抱きとめる。それはあの収録の時みたいに。
「だ・大丈夫だよ。ごめん。あはは」
笑ってごまかすしかない。彼の腕からさっと身を引きながら後ずさった。
きっと今、動揺して顔真っ赤だ私。
焦る私に対して、
「お前、休み暇なの?」
冷静な彼の言葉。私のドジぶりに彼は動じなくなってきている。
「え?まあ。うん。」
それに反して、男の振りをしているのに男に免疫がない自分は動揺し過ぎだ。
これじゃ、挙動不審人物じゃないか。
「じゃ、俺に付き合え」
「?」
「行くぞ」
私は訳の分からないまま、彼に引きずられてコンビニとは反対方向のマンションへ戻らされる。
そして、なぜか私は、夜の首都高を南下して走るバイクに乗っていた。
龍星の背につかまり、後ろで相手の迷惑にならないようにだけ考えていた。
「自分で乗るんだろ? 後ろじゃ物足りないと思うけど」
と意味ありげに笑った後、龍星は自分を乗せて走り出した。
本当のところバイクの免許を取得したのは最近だ。乗るといっても数回しか乗ったことがない。
いわゆるペーパーライダーなのだ。
もちろん、教習で先生に乗せてもらったことはあったが、公道でのタンデムは今日がはじめてだった。
(また来た来た)
道路は程よいくらいにカーブがあり、もちろん龍星は容赦がなく車体を倒してあまり減速しないで突っ込んでいく。
(私は荷物。荷物と思おう)
いくら怖くても、カーブでライダーと同じように傾かないと車体は曲がってくれない。
だから、自分がバイクの後ろにくくりつけられてる荷物になった気持ちで彼の背中にしがみついていた。
必死に格闘しているうちに、龍星の目的地に着いたらしい。首都高から降りてどこなのか見当もつかないところでバイクは止まった。
彼がバイクを降りたから、私もふらつく足で地面に着地して彼の後を追ってついて行った。
修学旅行くらいしか来たことのない東京で私はもう今どこにいるかさえわからない。
公園みたいなところを歩き、開けた場所に出た途端目の前に見えるのは海。
東京にこんなところがあるなんて・・・
到着時間はそんなに遅い時間でもない。そこには、カップルや親子づれがそこそこいる。
その時だった。
私たちの頭上を飛行機が通り抜けて行った。
「うわ~~」
私は思わず声を上げてしまった。
「ぷっ。あははは」
間抜けな私の声を聴いて、龍星が噴出して大笑いだ。
「わ・笑うなよ」
龍星あまりにも大うけするから、ムッとして男口調で抗議する。
「あ、ああ。ごめんごめん。あんまりにも予想通りの反応で笑えた。お前といるとほんとに飽きないな。」
「どういう意味ですか?」
「そのままだ。あ、ああ。でもその反応、なんだかホッとする。 これ、俺なりに褒めているから」
なんだかけなされているのか褒められているのかわからない感じだった。
でも、なんだか龍星が笑ってくれるとうれしい。まあそれは深い意味ではなく、怒られることが多いせいだとは思うけど。
私たち2人は傍から見れば男同士、友達同士な感じで海岸を歩く。
「俺、昔からよくここに来て、空を見る。ここに来ると、あの飛行機に乗って、どこか飛んでいけるような気がして、ポジティブになった。お前はさあ・・・そんなとこないか?」
砂浜に胡坐をかいて座り、海を見ていた。
「あんまりかな。ここみたいに海ないし、川もなかったし・・・いいとこじゃないからな。」
家の近くにもしこんないいところがあれば、自分も通うだろうな。
「そうか」
「ああ、でも僕はそんなにストレスになることもなかったし、ストレス感じる暇がなかった。習い事で忙しかったしな」
「習い事?」
「うん。空手・体操・スポーツジムとかね。だって、僕は特撮ヒーロー目指していたから」
「ああ、そうだったな」
龍星はそこでまた笑った。
今日の龍星はどこか違う気がした。やわらかいというか、この場所がそうさせているのかもしれない。
「龍星もなんかやっていただろ?歌もうまいし、ダンスだって」
「俺の場合は、生まれながらっていうかな。」
「?」
私は訳が分からなかったけど、そこは聞いてはいけない気がして何も言わなかった。
「あゆ・・あいつは幼馴染なんだ。おせっかいというのか、面倒見がいいというのか・・・」
龍星は私に自分ことを話そうとしてくれていた。
「俺の父親、湯沢修なんだ」
(ゆざわおさむ?)
湯沢修といえば、花井恵子とおしどり夫婦で有名な人気俳優だ。
「もちろん、母親は花井恵子じゃないけどな」
龍星そこで冷めた笑いをして黙り込んだ。
湯沢修の愛人の子だという。湯沢と花井との間には子供はいなかったはずだから、湯沢にとっては龍星一人が本当の子供だということだ。
私はそれにどう返答したらいいのかわからなくて黙って聞いていた。
「俺のデビューが決まって、花井が俺に会いたいと言っているだと。あれほど俺や母に・・・してきたくせに、いいろいろバックアップするだとよ。いらねぇつうの」
吐き捨てるように龍星はいう。
しばらくの無言が私たちを包んだ。また、私たちの頭上をまた飛行機が通り過ぎて行った。
「うわ~~」
気まずい沈黙を破って、龍星が叫んだ。
「ドジだし、考えなしだし、危なっかしいし、どうしょもないお前なんかに絶対に言う気なかったのになァ。なんでかな?言っちまったし俺。自分で笑える」
彼はそういいつつやさしい笑みを浮かべていた。その顔を見て私はホッとして、
「ひどいなァ~。これでも僕はしっかりしてるんだよ。なんでも言いってくれよ! い・つ・で・も、相談に乗るからさ。」
明るく私も冗談で返す。
「わかった。そうさせてもらうよ」
(え?)
私をまっすぐ見る龍星の目は、もう冗談ではなかった。砂浜についていた私の右手に龍星の左手がふれて、なぜかそのまま握ってきた。
(なに?なに?)
そんなの初めての経験だし(女としても)、ましてや今は男の振りをしている。だから、男同士の友達でも手を握ったりするものなのかしら?? 焦りながら頭の中でぐるぐる考えていた。
「お前は本当に隙だらけだな。他の奴には絶対隙見せるなよ。男だろうが、お・ん・なだろうが容赦ないのがこの世界だからな。」
龍星は手を放すと、いつものようなきつい口調に戻っていた。
「さ、帰るぞ。どうせあいつら、帰るっていいながら戻ってきているはずだからな」
先に立ち上がると、龍星は私の腕をつかんで立ち上がらせてくれた。
「うん」
私はなんだかもう少し龍星とこうしていたいような気がしていた。
そんな女的な考え方を考える自分に動揺していた。
「早く来い。置いていくぞ。」
「あ・待ってくれよ。」
龍星は戸惑う私を置いてどんどん行ってしまう。
私は龍星の背中を追って、駆け出した。
(今は私は男なんだ。しっかりしなきゃ)
私は自分に言い聞かせるのだった。