臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
「今、いいかね?」

見えたのはいつも優しそうに微笑みを浮かべ、白髪が混じった口髭を蓄えている副社長その人だった。

「お、おはようございます! あ、社長に……」

「いや。君に用があるので、社長には……」

茶目っ気たっぷりに口元に人差し指を当てる副社長に瞬きを返す。

私に用事? 副社長が?

お客様に待っていただくためのソファに副社長は座り、そして穏やかに微笑んだ。

「君たちは、毎朝楽しい事をしているね」

あ……これはお叱りなのかな。

それはそうだよね。正直言って私は一介の秘書に過ぎないんだし、毎朝毎朝、社長と喧嘩しているみたいにして出勤するんだから。

秘書課の詩織いわく“毎朝あんたと口論している社長を見て、ちょっと親近感が湧いた”とか言われたりもしたし、困ったことにあの狸……羽柴さんからも苦笑を返されたし。


「あ、あの。すみませ……」

「僕も君のコーヒーが飲みたいな」

は? 思わずまじまじと副社長の顔を見た。

コ、コーヒーですか? 私に用ってそれ?


「いつも社長が自慢しているよ。新しい秘書はコーヒーを淹れるのがうまいと」

「……はぁ」

穏やかに微笑む副社長に曖昧な返事を返す。

「では、淹れてまいります……」

そう言うと、前室の隣にある小さな給湯室に向かった。
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