臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
「お待ちになって、秘書さん」

会場に入る前の、人の少ない廊下で呼び止めたのは、金竜と艶やかな蝶の着物姿の大和撫子。


……と、その他数人。


あれー。これはまずいのか?

いや、でも、社長の方に大和撫子が行っていないなら問題ないのかな?

ううん。ある意味で大問題だ。


「何かご用でしょうか?」

表面上はにこやかに、身体の前で手を合わせて立つと、大和撫子が人の良さそうな笑顔で首を傾げる。

「あなた、臨時の秘書なんですってね?」

「そう申し上げましたが」

「何が目的です? 伺いましたこれど、隼人さんがあなたを選んだ、というわけではないのでしょう?」

誰に何を聞いたのかわからないけど、私は仕事が目的だし、確かに社長が私を選んだ訳じゃなく、羽柴さんが私を選んで社長に押しつけたよね。

……てか、何だろう。これはとてもお上品にいじめられているのかな?

考えていたら、大和撫子の隣に立っていた女性が、近づいてきて私の肩を押した。

「身の程を知りなさい。あなたは隼人さんに相応しくないのよ。そんな風に着飾ったところで、たかが会社勤めの秘書なんでしょう?」

確かに私は会社勤めの単なる秘書だし、相応しいとか相応しくないとか、そんな事は私には関係ない事でもあるし、着飾っているのも私が望んだわけでもないし。

あれ? どうしよう。考えたら考えるだけ猫を被るのは馬鹿らしくなってきた。
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