臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
「それで……お前はいつまでここに突っ立っているつもりだ? 中に入るぞ」

「あ。はい。すみません」

手を引かれて歩くと、小杉さんが苦笑しながら戸を開けてくれた。

「お邪魔します」

「まぁ、見た目より雑多な家ですがどうぞ」

玄関を入ると、靴箱らしき棚の上に木彫りの熊が鮭をくわえていた。

それを思わずまじまじと見ていたら、奥からパタパタと誰かが出てくる気配がして、近づいてきたのは姿勢も正しい凛とした雰囲気の女性だった。

「いらっしゃいませ。むさ苦しいところですが、よくお越し下さいました」

その人はサッとかまちにしゃがみこむと、これまたササッと二人分のスリッパを並べてくれて……目が合う。


うわぁ、どうしよう。

めっちゃガン見されてる。緊張するんだけど。

どうすればいいのか、頭でぐるぐる色んな事を考えていたら、隣の社長がブホッと吹き出した。


「勝子さん、普通にしてやってくれるか。美和は起き抜けなんだ。けっこう飲んでいたし」

「そうなんです? 駄目じゃない。女の深酒は理由は、だいたい男よ」

ああ。それは間違いないなぁ。

ストレス発散的な要素はある。主に社長のせいで。

だけど、何を思ったのか、当の本人は眉間にシワを寄せて私を睨んだ。

「そうなのか?」

聞かれて答えられるわけがない。

バカじゃないのか。
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