臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
「チョコレートを召し上がりませんか? コーヒーに合いますよ」

ポケットからパッケージに包まれたチョコレートを取り出したら、社長と副社長がキョトンとして私を見る。

そして、おずおずとふたりともチョコレートを取って無言になった。

「もう少し建設的な話をしましょう」

社長は疲れたようにそう言うと、ぽいっとチョコレートを口に入れ、片手を差し出すからファイルを返す。

これは、もしかしなくても、横領事件なのかな?

「こんな大事な事を、私が知ってしまっても問題ないんでしょうか?」

「今はお前が俺の秘書だ。動いてもらうこともある。仕方がないだろう」

社長の言葉に微笑みを返して、内心でがっかりした。

……ええ。そうだね。仕方がない。

仕方がないから、私に命じるしかないもんね。

「では、失礼いたします」

一礼して退出すると、トレイを持ちながら溜め息をついた。

まぁ、所詮は臨時の秘書だからね。

わかっていた。社長の仕事は激務のはずなのに、私を通すモノはけっこう簡単な案件しか任されていないのも、本当に重要な事は、副社長が直接、社長に持ってきていたことも。

薄々気づいてはいたんだ。

でも、まぁ、私は数ヶ月しか着任しない秘書だし、そりゃ数ヶ月程度で信用を勝ち取ろうとは思わないんだけどさ。

……仕方がないとか、普通に落ち込むんですけど。
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