臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
***



「……疲れる」

ポチポチと最後の一行を打ち終えて、ざっと目を通してから印刷ボタンをクリック。

黒いファイルは、超達筆な手書き筆記体の英文の書類だった。
海外とのやり取りは、メールでいいと思うんだ。絶対。
そこらに走り書きのミミズみたいな文字もあったし、大変でしたとも。

正直、いじめられているのかと思ったのはここだけの話。

その間に社長室には常務が来たり、会長がミニトマトを持ってきたり、取引先から連絡が来たり。

多方面の諸々を円滑にまわして、こなしていくのも秘書の勤めだよね。

印刷した書類の束を最終確認して、また黒いファイルに綴ると、社長室をノックする。

中から小さな返事があったからドアを開けた。

社長はデスクの向こう側に立ち、窓から下を眺めている、その背中が見えた。

……後ろ姿もいいよねぇ。

背が高いと猫背な人も多いけど、社長は姿勢がいいし、何よりスーツ姿って萌えるんだ。

それでも、真面目な表情をして近づいていく。

「失礼いたします。先程のファイルをまとめ終わりました」

「ありがとう」

そう言って社長は振り返り、手を差し伸べるから、何気なくその手にファイルを乗せた。

一瞬動きが止まり、それからそっとファイルは手から離れていく。


……ん? 何だろう、今の間は。


「どうかなさいましたか?」

不思議に思って顔を上げたけど、社長の無表情が見えるだけ。

「特に問題はない。下がっていいぞ」

違和感が半端ない。だけど、踏み込むのはやめておいた方がいいかな。

距離を置くって決めたんだし。
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