臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
社長は私を見て、それから羽柴さんを見て、最後に野村さんを見つけて眉を上げる。

「野村。もういいのか?」

「ああ、社長。本当にご迷惑をお掛けしました」

立ち上がろうとする野村さんを社長は止めかけ……思い出したように私を見下ろす。

「社長室で話す。コーヒーを頼む」

そう言って社長室に戻るから、野村さんがついて行った。

閉まるドアを見て、羽柴さんが首を傾げる。

「どうかしたのかい?」

「……はい。春日井さんが用もないのに社長室を窺っていたらしくて」

「また、あの子かい? 悪い子じゃないんだけどねぇ……」

「だからと言って、大っぴらに糾弾はできませんし。今は事業部の件もありますから、迂闊な事はできません。出来れば、役員への書類は彼女に持たせないで頂ければ……」

羽柴さんは苦笑しながら頷いてくれた。

役員室の区域に入らなければ、彼女も悪さはできないだろう。
秘書課から、用もないのに役員室の区域に向かったらめちゃくちゃ目立つだろうし。

一人で頷いていたら、羽柴さんがとても嬉しそうな笑顔で私を眺めていた。

「西澤さんも、すっかり秘書の顔になったねぇ」

「元から秘書課の人間ですが?」

「いやぁ、前は他人事みたいに仕事を受け取って、ただやってますって感じに見えたからねぇ。意見があっても言わないタイプ」

指を差されて顔を赤らめる。確かに、その通りだったと思う。

キャリアみたいに上を目指しているわけじゃない。

衣食住が安定していられれば、それはそれで幸せだし。

「平凡でいいんです」

「それは……君の性格的に無理だと思うけどねぇ」

遠い目をして執務室に歩き始めた羽柴さんに、私は聞かないふりをして給湯室へ向かった。









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