臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
***



「まぁ。普通だな」

社長がポツリと呟いて、まわりの皆さんが小さく笑った。

高級料亭……ではなく、そこそこリーズナブルな個室居酒屋。
和モダンの店内は、温かみと洗練されたシンプルさが融合している。

ちなみに、お店チョイスは詩織プロデュースだ。

飯村家の長男坊が『成田さん誘ってくれたら行くよ』と、冗談混じりに断ってきたから、それなら……と、試しに詩織を誘ってみると、なんとオーケーが出た。

なので、私の目の前に詩織が座っている。

だって、私も流石に女一人は避けたかった……詩織と私以外は皆男性なんだもん。

羽柴さんに、副社長に飯村さん。野村さん、そして社長。

それに、詩織だったらこのメンツにも物怖じしないと確信している。

「そうですね。新入社員が背伸びしたくらいのお店で、個室、畳の座敷ではないというオーダーでしたので」

「……美和のオーダーか」

「そうです。美和の注文です」

何故か納得して、頷きあう二人をぼんやり眺めた。

別に種明かししなくていいから。

「では、ご注文受けますよ〜?」

わいわいと賑やかにメニューを見ながら飲み物を注文していると……。

「女の子を入口側に座らせたら、給餌係か配膳係になっちゃうから」

と言う野村さんの助言で、何故か勝手に席替えが行われ始める。

「え。あの……?」

無表情の社長が、立ったままの私を見上げた。

「……座れば?」

社長のお隣りさんは避けたのにな。
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