臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
彼は彼で小太りのおじさんに「今度、視察にお見えになるときにはくれぐれも連絡をください」とか何度も言われながら、入口で彼とは別れる。

お互い無言のままで車まで戻り、シートベルトをつけると、社長が難しい顔をして私を向いた。


「疲れたか?」

「いいえ。案外、私は好意的に迎えてもらえましたから。社長秘書とはいえ臨時ですし……」

そう言いかけて、社長の顔をまじまじと見る。

「食堂は二つあるんですか?」

「そのようだな。俺が見せてもらった方は事務方や、役職ばかりが使っていたが、どうやら区分けしているらしい」

「私が案内された食堂は工場勤務のパート従業員が大多数でしたね。ケーキは美味しかったですが」

「そっちの食堂にいなかったから、どこか別室で食ってんのかと思っていたが……音羽に馬鹿にされたんだな、お前」

エンジンをかけて車を走らせながら、どこか上の空の社長を眺める。

「馬鹿にさせるように仕向けたのは社長でしょう?」

一瞬だけ目が合って……。


「お前……やりずれぇ」

溜め息をついた社長に目を細める。

私も一生懸命考えたよ。

社長だって馬鹿じゃー……いや、馬鹿な事をしでかす人なのかもしれないけど。

これだけの会社を切り盛りしているんだもの頭はいいはずで、私なりに割り振られた役について考えてみて……。

これはきっと“出来の悪いお飾り秘書”かなぁって思ったわけだったけど。

きっと間違いなくそれを割り振られたみたいだよね?
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