臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
***



そして午前中の書類整理も終わり、備え付けのコーヒーメーカーからコーヒーを注いで飲んでいた時。

営業部に書類を持って行っていった春日井さんが、いつもの如く甘ったるい香水のにおいをまき散らしながら帰ってきた。

「ねぇねぇ、聞いた。西澤さん」

同期入社の詩織ならともかく、同期でも春日井さんとあまり話をする事はないから首を傾げる。

綺麗な栗色の巻き髪。派手とまでは行かないにしろ、女を強調した化粧。パステルカラーの体にフィットしたスーツを好む彼女は、いつも男性社員に囲まれているイメージがあった。


「何をですか?」

「社長秘書の野村さんが事故に遭われたそうよ」

「え……。大変じゃないですか」

それで今日は社長の後について出勤していないんだ。

事故って車? 大丈夫なんだろうか?

「社長秘書の彼が事故なんて問題よね。秘書がいないっていう事は、社長の業務が滞るじゃない? 早急に代わりの秘書を探すはずよね。お近づきになって玉の輿に乗れるかな」

「……はあ」

いきなり何なんだ。どっちにしても社長の秘書なんて男性秘書が選ばれるでしょ?

なんと言っても社長は女性が嫌いなんだから。

7センチヒールでお尻をフリフリして春日井さんが噂を広めに走っているのを横目に、戻ってきた羽柴さんに呼ばれた。

「西澤さんいいかい?」

飲みかけのコーヒーをデスクに置いて、入口からおいでおいでする羽柴さんに近づく。

「ちょっと来てくれるかい?」

なんだろう?
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