臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
***



そうして社長に連れてこられたのは、カコーンと厳かに鹿威しの音が聞こえる、何故か純日本風の庭園を持つ個室の座敷だった。

品の良い着物姿の女の人に出迎えられて、落ち着いた表情を取り繕っていたけど……。


内心はバクバクですが!


「今日は酒はいい。俺が運転するから」

社長が着物の女性に軽くそう言っているのを聞きながら、視線だけで間取りを確認する。


無駄に広いということはないけど、二人にしては広い八畳の四角い和室。

床の間? たぶん床の間と呼ばれるそこには解読不能な墨汁の文字で書かれた掛け軸。

そしてきっと造花なんかじゃなくて、生花活けられた鉢が置いてある。

私が座った右側には障子で、上半分は普通に障子貼りで下半分がガラス張りになっている。

暗いながらも小さな石灯籠でライトアップされた庭園が見えた。


これは絶対に、普通の一般の庶民が来るようなお店じゃない。

どちらかと言ったら、政府関係各社が使うような料亭とか言われる奴だ!

秘密の会談とか、何か重要な接待とかで使うようなお店でしょう!

どうしてここに私が連れてこられたの?


「小娘。少し挙動不審だが」

着物の女性がいないことを確認して、目の前の社長をキリッ見つめる。

「申し訳ありません。洋食の作法であればある程度存じていますが、日本食の所作には自信がありません」

正直に言ってみた。
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