臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
「お前は馬鹿正直だが……気にするな。だからここを選んだ」

白いおしぼりで手を拭きながら、気負うことなく言った社長に首を傾げて見せる。

「お前くらいの年齢で、食事の作法完璧って奴の方が珍しいぞ?」

「それはそう……かもしれませんけど」

「作法はそのうち覚えるだろ。覚えるなら一流の所で学ぶのが一番だ。ここならいい練習台になりそうだし……そもそもこっちの都合ってところの方が大きいし」


社長の都合?

ますます首を傾げる私に、社長は自嘲するように笑った。


「うちみたいな商社の社長は若くても40・50のおっさんが社長で当たり前だからな」

それは存じてますけど。

「若い俺だと侮られることも多いから、そういう方面には副社長に任せている。だが……顔を売っているつもりはなくても勝手に売れるから」

「社長が有名人なんですか?」

社内だと有名っていうのは判るんだけど、会社の外でも有名ってこと?

「有名……かな。雑誌の取材もたまに入るぞ?」

「え? 私、確認したことないですよ?」

「当たり前だ。だいたい広報部で止めに入る。あいつら“両親の事故死”と俺が商社の社長をやるには30代でまだ“若い”ってことを繋ぎ合わせて取材するつもりでいやがる」

顔をしかめている彼に、私もおしぼりで手を拭き眉を顰めた。
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